畠中 恵 05 | ||
ゆめつげ |
時代物を中心に発表している畠中恵さんだが、今回はしゃばけシリーズではない時代物作品を手に取った。読み始める前は、しゃばけシリーズのようなほんわかとした作品を想像していたのだが、しゃばけシリーズとはかなり印象が異なる。
江戸は上野の小さな神社・清鏡神社の神官兄弟、兄の弓月と弟の信行。信行の方がしっかり者だが、のんびり屋の弓月には特技があった。夢に入って過去や未来を見るという「夢告」。ところが、この夢告が何とも頼りなく、役に立ったことがない。
時代設定に触れておきたい。黒船でペリーが浦賀に来航してから10年。大政奉還が目前に迫っている。辻斬りが跋扈し、世間には不穏な空気が漂う。冒頭のシーンで、川辺兄弟はいきなり辻斬りの襲撃を受けるのだから、穏やかではない。
夢告の能力を見込まれ、白加巳神社に赴く2人。弓月に見てほしいことというのが、実に難題であった。夢告の結果を巡ってああでもないこうでもないと争っているうちは、まだコミカルと言えなくもない。しかし、2人が呼ばれた本当の理由とは…。
2人を含む白加巳神社に集まった面々が、危機に陥るとだけ書いておくが、舞台がほぼ白加巳神社の中に限られるので、動きが少なくエンターテイメントとしてはやや退屈か。謎解きの部分はミステリー的と言えなくもないが、脱出の方がメインのような。
弓月の夢告が頼りないのがミソ。常に真相に肉薄しているのに、肝心な部分が見えない。そして、夢告は体にかなり負担を強いるのもミソ。あまりやりすぎると命に関わる。だからこそ、じれったい展開に持ち込める。それでも終盤では血を吐いているし…。
シリアスな設定のはずなのに、弓月はおっとりしたままだからあまり深刻さを感じないんだよなあ。どう考えてもとんだとばっちりなのに、お人よしだこと。人々が不安に苛まれる江戸末期。何だか現代に似てはいないか。時代設定がそれほど生きていないのが惜しまれるが、2人は激動の時代をたくましく生き抜くに違いない。