畠中 恵 10 | ||
まんまこと |
『しゃばけ』シリーズで知られる畠中恵さんの、もう1つの時代物のシリーズである。本作には、しゃばけシリーズのようなファンタジーの要素はなく、純然たる人情時代物である。宮部みゆきさんの時代物が好きな読者なら、大いに楽しめるだろう。
江戸は神田の古名主、高橋宗右衛門の息子・麻之助。跡取りとして評判は良かったのだが、十六を境に変わってしまい、今ではすっかりお気楽者。そんな麻之助が、町の難問奇問に、女好きの悪友・清十郎、同心見習いの吉五郎とともに立ち向かう。
本作を読んで知ったのだが、当時の江戸では、奉行所では裁き切れない町内の揉め事を町名主が裁定していたという。時には父に代わり、名主名代として裁定をする麻之助。本作の読みどころの1つは、麻之助が絶妙な裁きをする点にある。
一見おちゃらけた麻之助と清十郎だが芯は強い。2人で悪さをした分だけ、若くして世の酸いも甘いも知っている。持ち込まれる揉め事の数々は、そんな彼らだからこそうまく裁けるものが多い。大岡忠相タイプではなく遠山金四郎タイプとでも言おうか。
1話完結で揉め事を解決する一方、連作短編集として徐々に明かされる謎もある。麻之助はなぜ変わってしまったのか。麻之助の裁きの背景には、当時の苦い記憶があったのだろうか。そして、現在の麻之助に降りかかる重い問題。
最後の「静心」で、事件らしい事件が起きるのだが、麻之助と清十郎、2人の事情が密接に関わってくる。詳しくは書けないが、2人の家ならではの事件でもある。事が事だけに、吉五郎たち同心も動く。こういう呆れる話は、昔も今も変わらないのかねえ。
何はともあれ一見落着かと思ったら…あっちの話はどうなったんだ??? 本作の続編として『こいしり』が刊行されているが、読めばわかるってことですか。このシリーズは、しゃばけシリーズほどの人気はないかもしれないが、しゃばけシリーズよりも一般読者が手に取りやすいだろう。僕はこちらの方が好きかもしれない。