東野圭吾 16 | ||
犯人のいない殺人の夜 |
数ある東野さんの短編集の中でも、屈指の好編が揃っている。しかも、胸の詰まるような傑作短編の何と多いことか。全7編の中から、特に印象深い4編を紹介したい。
まずは、「小さな故意の物語」。某有名漫画をもじったに違いないタイトルだが、内容は決してパロディではない。舞台は高校。親友が校舎の屋上から墜落死した。まるで枯葉のように。警察は自殺として処理しようとしていたが、その真相は…。東野さんは、ティーンエイジャーの心理を描くのがつくづくうまい。「小さな故意」が意味するものは?
「踊り子」。僕が思うに、本作のベスト1。が…精神衛生的には良くないな。気分が沈みがちの時には読まないことをお勧めする。夜の体育館で、新体操に興じる美少女。そんな彼女に、少年は恋をした。彼は気持ちを伝えたいだけだった。それなのに…。うう、残酷すぎる…。
「白い凶器」。タイトルといい、内容といい、僕としてはとーっても居心地が悪くなってしまった。その理由は、完全なネタばれになるのでここには書けない。早くも書くことが尽きてしまったが、勘が鋭い方にはわかってしまったかな?
「さよならコーチ」。特に実業団に多い気がするが、女子選手たちは寮生活を送って徹底管理されるという。恋人を作るなどもってのほか。本人が納得してやっているのなら僕が口を挟む余地はないが、いかがなものかと思う。競技一筋に生きてきた、ある女子選手の悲しい物語。彼女の切実な問いに対する回答を、僕は持たない。
表題作の「犯人のいない殺人の夜」も面白いけど、本作の中では浮いているような気がする。どうせなら、胸の詰まる作品だけで固めても良かったのでは。文庫版の大多数は講談社文庫から刊行されている東野作品だが、光文社文庫のラインナップにも是非注目を。