五十嵐貴久 29


キャリア警部・道定聡の苦悩


2013/12/31

 年末の暇つぶしにライトなミステリーをご所望なら、ちょうどいいのではないか。

 東大卒で警察庁に入庁したキャリアの道定聡。エリート街道を進むはずが…群馬県警総務課長を務めていたとき、部下の不祥事の責任を負わされた。異動先は、警視庁捜査一課強行犯三係。捜査の最前線に放り込まれることに…。

 現実にはキャリアに責任を負わせるなんてことはないと思うが…押し付けられた強行犯三係も扱いに苦慮する。戦力として期待されていないため、美人だがやる気がない山口ヒカルと組まされることに。彼女のパートナーは、ことごとく辞職か異動したという。

 第一話「Gの密室」。高層マンションの自室から転落死した女性。状況から自殺としか考えられないが、動機がわからない。うーむ、そこまで冷静さを失うものだろうか…。第二話「アリアドネの罠」。宗教団体の教祖が刺殺された。状況からある幹部の犯行としか考えられないが、やっていないと主張する。証拠隠滅の手段が斬新といえば斬新か。

 第三話「元気すぎる死体」。男性を刺殺したと女性が自首してきたが、行ってみると死体がない。ところが数時間後に再び行ってみると…。構成、動機面ともよく練られ、本作中では最も完成度が高い。第四話「ダブル・フェイス」。瓜二つの双子の兄弟のどちらかが犯人なのだが、どちらも否認する。こちらもなかなかの完成度だが、やや反則か。

 第五話「落人の首」。潜伏していた指名手配犯を護送するため、栃木県の山奥の村を訪れる。犯人は確保されたが、新たな死体の発見に現場は混乱する。祭りを控えた村は、中止にはしたくないという。うーむ、一応伏線があるけどもさあ…。

 急に働く山口刑事に戸惑うが(単に帰りたいだけか)、5編とも工夫はされていて楽しめた。ただし、彼女の趣味があれである必要はあるのか。何より、最近流行りのユーモア・ミステリを狙った割にはコンビの妙は今ひとつ。二番煎じ感が否めない。

 五十嵐貴久さんは、作風が多彩というより、軸がぶれているようで気になる。代表作が1つ生まれればいいのだが。頼りない道定警部の奮闘と成長には注目してあげよう。



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