石持浅海 22 | ||
見えない復讐 |
『攪乱者』『この国。』に続くテロリズム3部作なのだろうか。本作『見えない復讐』における復讐者の相手は、国家ではない。しかし、手段の面では相通じるものがある。
東京産業大学の3人の大学院生、田島、中西、坂元は、母校に強い憎しみを抱き、復讐心をたぎらせていた。しかし、大学という法人を相手に、どこへ、どの範囲で復讐すべきなのか。やがて至った結論では、実行に莫大な費用がかかる。そこで彼らは、ベンチャー企業を設立することにした。復讐資金を稼ぐために…。
エンジェル投資家の小池を訪ね、投資を依頼する田島。本来ならば投資を断るところだった。ところが、田島たちと同じく東京産業大学出身である田島は、一転して投資することにした…。そのきっかけを描いたのが第一話である。3人は資金が貯まるまで何もしないわけではない。できることからコツコツと…というのは不謹慎か、やっぱり。
一話一話は小さなエピソードだが、そこには底知れぬ悪意が込められている。実際に犠牲者も出た。ネット上を駆け巡る噂を、大学当局としても無視できなくなってくる。田島と小池の洞察力というか深読み合戦は、いかにも石持浅海作品らしい。
ところが、復讐に向かってまっしぐらかというと…。3人が設立したベンチャー「エフ・シー株式会社」は契約社員も増え、事業は軌道に乗っていた。そして彼らの心は揺らぐ。そもそも復讐資金のために設立したのに、経営の面白さに気づいてしまった。決して復讐は捨てていない。しかし、会社を潰したくはない。その点に一ひねりがある。
さあどうする? 終盤に近づき、とうとう小さなエピソードでは済まない事件が起きるとだけ書いておこう。3人は悠長に構えてはいられなくなる。そして最終決着へ…。
全編を通して、たまたま見かけたとか偶然の要素が強すぎる一方、推理の要素は薄いと言わざると得ない。突っ込みどころも相変わらずだが、サスペンスとして読めばなかなかのもの。復讐ものにしてはすっきりしていて、なおかつビターなこの読後感。
石持流本格は、余人の追随を許さない境地に達しつつある。