石持浅海 27 | ||
トラップ・ハウス |
2ヵ月連続で光文社から刊行された石持浅海さんの新刊は、来たぜ来たぜクローズドサークルだ。作家生活10周年を迎え、原点回帰か?
卒業旅行にやって来た男女9人が、狭苦しいトレーラーハウスに閉じ込められた。1人が早々に絶命し、混乱する中で次々に襲いかかる罠と、悪意に満ちたメッセージ…。やがて、彼らは触れたくない記憶を思い起こすことになる。
というベタベタな設定。真犯人は誰か、必死に頭を働かせる面々だが、議論は堂々巡り。クローズドサークルにして堂々巡りといえば、怪作『セリヌンティウスの舟』に匹敵する突っ込みどころを期待してしまう。え、最初から読み方が間違っている?
罠の1つ1つはちゃちといえばちゃちだが、1人死んでいるので悪ふざけでは済まされない。同級生の死体を前にして推理しなければならない、彼らの心中やいかに。1時間毎にセットされた目覚まし時計が鳴るという演出はなかなか嫌らしい。
彼らの触れたくない過去とは? 学生時代、こういう話に覚えがある人は多いのでは。自分の身近でもあったし、確かに思い出したくはない。それぞれ内定も決まっており、卒業間際にこんな目に遭わされるとは…。脱出方法に早く気づけと思わなくもないが、彼らがもっと早く気づいていたら、真犯人はどう出るつもりだったのだろう?
感情移入できる時点で、『セリヌンティウスの舟』より甘い甘い。何たって『セリヌンティウスの舟』は、序盤でまったく乗れなくなったのだ。共感できる点はゼロ。本作も突っ込みどころの宝庫には違いないが、まだ理解できなくはない。もっともっと色物の高みを目指してほしかった。え、最初から期待するものが間違っている?
毎度ながら、多くの石持作品の例に漏れず、事件の後始末にはまったく触れないのだった。警察に何と説明するんだか。彼らの内定に響かなきゃいいけどねえ。登場人物を散々いたぶった挙句に放り出す、これもまた石持流。