海堂 尊 13


極北クレイマー


2009/04/25

 田舎町出身で、郷里に家族がいる僕としては、地域医療というテーマは決して無縁ではない。初めて初版刊行と同時に手に取った海堂尊作品である。

 『ファーノース・ホテル』、『北の大地の遊園地』、『極北山スキー場』、『極北市民鉄道』、『極北市民病院』という赤字5つ星を抱え、財政破綻に喘ぐ極北市。そんな赤字5つ星の1つ、極北市民病院に大学から非常勤外科医の今中がやってきた。

 極北市のモデルが、夕張市であることは明白だ。極北大の医局から弾かれるように赴任した今中も、いくら財政難とはいえ万事に杜撰な病院運営に絶句する。着任早々看護師たちを敵に回し、奮闘する今中の前に、白鳥の腹心・姫宮が現れた。

 院内の描写には誇張を感じるものの、地域医療の崩壊を立て直す物語なのかと思っていたのだが…。本作は、あれこれテーマを盛り込みすぎる、海堂作品の問題点が端的に表れた作品と言わざるを得ない。これが帯にあるような「新境地」なのか?

 極北市民病院の良心である産婦人科の三枝医師の医療事故問題が浮上する。愛妻を亡くした宏明の気持ち。公権濫用と反発する医学界。それぞれの主張に一理あり、切り離すべきテーマではないのか。大体、姑息な手段に出る赤いスポーツカーの女の狙いは何なのだ。狙いがわからないだけでなく、大変不愉快なキャラクターだ。

 日本医療業務機能評価機構なる組織が出てくるが、今中は誰のための審査なのかと疑問を持つ。このくだりを読んで、毎年会社が受けているISO定期審査を思い出した。誰のための…以下略。僕は思う。何のためにこの団体を登場させたのか。少なくとも地域医療とは別問題だろう。結末に近づくと、伏線だったことがわかるのだが。

 色々問題提起をするだけしておいて、何も解決していないのが何よりも不満。地域医療の悲惨な現実を訴えたかったのか? それにしても、これでは単にネタでしかない。多作の弊害と言ってしまっては酷だろうか。海堂さんご自身の主張も見えない。

 最後に現れた男が、真に救世主なのか。いかにも続編を匂わせる結末だな。あの男が全面協力を約束してくれたのが、本作の唯一の救いかもしれない。



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