海堂 尊 23


玉村警部補の災難


2012/02/15

 海堂尊さんの新刊は初の短編集である。警察庁の加納警視正と桜宮市警察署の玉村警部補のコンビが難事件に挑む。警察官が主人公なのも初めてか。『玉村警部補の災難』というタイトル通り、玉村警部補は加納警視正に振り回される。

 ところで、本作収録の4編の初出は、『このミステリーがすごい!』2008年〜2010年版および2012年版である。毎年買っているくせに読んでいないし。単行本を買わなくても過去の『このミス』にすべて載っているのだが、結局買ったのだった。

 最初の「東京二十三区内外殺人事件」は、『イノセント・ゲリラの祝祭』の内容とかぶる。東京23区内か神奈川県かで大きく違う、異状死への対応。白鳥のやったことは違法だろうし、これは極端な例だが、見逃しは現実に起こり得るのだ。

 「青空迷宮」。正月特番用の巨大迷路のセット内で、人気タレントが殺害される。何だか普通に本格っぽい設定だな。ところが、加納警視正が容疑者を落とした手段とは…二重に反則だろっ!!!!! どちらかというと、背景にあるお笑い芸人の明暗が興味深い。

 「四兆七千億分の一の憂鬱」。このタイトルは、現在のDNA鑑定の精度を示している。地球の人口が約70億人というから、理論上間違えるはずがなく、男性の容疑は動かしようがない。しかし、加納警視正の嗅覚は納得していなかった。ううむ、この経費はどうやって落とすのだろう。真犯人にしてみれば相手が悪かったねえ。

 「エナメルの証言」。桜宮市内で、暴力団竜宮組幹部の焼身自殺が相次ぐ。どう考えても不自然だが、いずれも本人と確認されていた。その裏で、ある非合法ビジネスが横行していた。Ai推進派の海堂さんが、Aiが万能ではない例を書いているのが潔い。そもそも、海堂さんはAiと解剖は補完する関係にあると最初から明言しているのだ。

 最後の2編は長編にも十分アレンジできるネタだし、これから出る作品の伏線に違いない。「エナメルの証言」では、東城大医学部Aiセンターは稼動直前になっている。Aiセンターの、そして田口Aiセンター長の前途多難を予感させる。



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