海堂 尊 26


スリジエセンター1991


2012/10/29

 『ブラックペアン1988』、『ブレイズメス1990』と続いたシリーズの完結編である。桜宮サーガ本編は一足先に完結したが、本作を読み終えて色々なことが腑に落ちた。

 東城大医学部病院長の佐伯教授が、心臓手術専門の「スリジエ・ハートセンター」設立のために招聘した天才外科医・天城。大反響を呼んだ日本胸部外科学会での公開手術から1年。天城の唯一の部下である世良に、天城は2回目の公開手術を行うと告げる。

 その対象とは、地元の大企業であるウエスギ・モーターズ会長。天城は、成功報酬として多額の寄付金確保を目論む。一方、佐伯教授がぶち上げた病院改革は、院内に衝撃が走る内容だった。院長選挙が近いこともあり、抵抗勢力がうごめき出す。

 一言で述べれば、本作は院内政治の話である。当然愉快な内容ではない。天城の前に立ちはだかるのは、後の病院長である高階。長年仕えた黒崎を差し置いて、佐伯教授の懐刀と称される男が、上司に反旗を翻した。

 本作では、高階は完全にヒールに回っている。あれこれ裏で手を回し、策を弄する高階の好感度は大幅にダウンし、地に落ちるだろう。終盤では、彼の弄した罠(と言って差し支えないだろう)が最悪の事態を招きかける。天才・天城とて、人間だった。

 前作『ブレイズメス1990』を読み終えた時点で、天城という人物に気持ちは入っていなかった。しかし、本作に描かれたのは、生身の人間・天城。彼は金の亡者ではなく、技術を誇示したいのでもなかった。ただ、目の前の患者を助けたかった。

 高階は高階の信念に従ったことは認めてもいいだろう。決してポスト欲しさで動いたわけではないし、主張には一理ある。だが、結局彼が守ったものとは何だろう。院内政治の結果がどうなったかは、シリーズ本編に描かれた通りである。

 苦い読後感が残るが、このバブル3部作こそシリーズ全作を繋ぐ要であり、同時にシリーズの原点だったことがわかるだろう。桜宮サーガの終着点はどこに?



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