金城一紀 01


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2000/09/11

 僕は大学時代仙台市に住んでいたのだが、当時の住まいの近くに東北朝鮮学校があった。一度だけその前まで行ったことがあるのだが、あまりの立地条件の悪さに驚いたものだ。押し込められている。それ以外に表現のしようがなかった。

 本作の主人公は、在日朝鮮人の少年。小学校、中学校と否応なく朝鮮民族学校で過ごした彼が、韓国籍になったのを期に日本の高校へ進学することを決意する。通称名「杉原」を名乗って。

 話を複雑にしようと思えば、いくらでもできただろう。根強い在日の朝鮮人、韓国人に対する差別。決して風化しないであろう、日本軍による所業の数々。不謹慎な言い方だが、話を重くするネタには事欠かない。しかし、敢えて湿っぽさを抑えたからこそ、本作は多くのことを読者に訴えてくる。

 受け取り方は色々だろう。青春小説でもあり、恋愛小説でもあり、反体制小説でもある。そこにあるのは、てらいのないストレートで痛快なメッセージ。彼は時折、自らの境遇を語るが、けっろとしたものである。国籍がどうした。俺は俺だ。

 そんな彼が、日本人の女の子に恋をした。本気で好きだったから、打ち明けられなかった。差別に屈することなく堂々と生きてきたはずじゃないか。たいしたことじゃないと思っていたはずじゃないか…。国籍という見えない壁は、かくも高いものなのか。全体的に軽快な作風だけに、胸がぐっとつまる。

 腕っ節が強く、高校では喧嘩で無敗を誇る主人公だが、その彼が足元にも及ばない父親の存在。この父親が息子に加える制裁ときたら、とにかく容赦がない。暴力を肯定する気は毛頭ないが、今時本気で殴り合う親子がいるだろうか。

 No soy coreano, ni soi japonés, yo soy desarraigado

 俺は朝鮮人でも、日本人でもない、ただの根無し草だ。色々と読みどころ満載の本作だが、単純明快なタイトルとこの言葉に、本作のすべてが集約されている。



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