金城一紀 03


フライ,ダディ,フライ


2003/02/11

 待望の金城一紀さんの新刊が、一挙に二冊刊行された。

 そのうちの一冊、本作『フライ,ダディ,フライ』は長編である。実際に手に取ってから知ったのだが、何が嬉しいかって、本作には『レヴォリューションNo.3』に登場した愛すべきオチコボレ集団が再登場するのだ。ただし、本作の主人公は彼らではない。

 47歳のサラリーマン鈴木一が帰宅すると、愛する娘が病院に運ばれたというメモがあった。怪我をさせた相手は、ボクシングでインターハイ三連覇を狙う高校生。金で揉み消そうとする学校側と、まったく反省の色がない本人。

 いきなり暗い幕開けだが、本作は元気が出る小説であることを最初に言っておきたい。ひょんなことからオチコボレ連中と知り合い、憎き相手に復讐するべくトレーニングを受けることになったお父さん。コーチ役は、連中の中でも滅法腕が立つ在日朝鮮人の朴舜臣だ。一ヵ月半もの有給を申請した鈴木に、家庭不和に悩む上司は言う。

「おまえが会社に戻ってくるまでに、父親としてカッコよかった時のことを思い出しておくよ」

 例によって読みどころは多い。日本のお父さん復権の物語であると同時に、オチコボレ連中と鈴木の交流の物語でもある。「生きている世界が違うんだよ」と言い放つ朴舜臣。鈴木の肉体が改造されていくにつれ、次第に打ち解けていく。

 それにしても、連中の根回しと情報網は凄い。彼らは今時珍しく携帯を持たない。鈴木は思う。連中に携帯は必要ないだろう。やがて鈴木は、娘の通う学校にまつわるエピソードに思い当たる。是非、『レヴォリューションNo.3』を先に読んでおこう。

 決戦の日、連中が用意した舞台は最高だね。汚れたチャンピオンを叩き潰せ。若い人から鈴木と同年代のお父さんまで、幅広い人に読んでほしい作品だ。



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