加納朋子 20 | ||
はるひのの、はる |
『ささら さや』『てるてる あした』と続いた佐々良シリーズの第3作にして、シリーズ最後の作品だという。加納朋子さんの3年ぶりの小説の新刊を、まずは喜びたい。
本作には、前2作に関わりのある人物はほとんど登場しない。主人公のユウスケには、特別な能力があった。人には見えないものが見えるのである。その能力を見込まれ(?)、「はるひ」という謎めいた少女からの依頼を度々受けるユウスケ。
「はるひのの、はる」。有川浩さんの『植物図鑑』を彷彿とさせる和やかな序盤が一気に暗転…。幼いユウスケには衝撃的な展開だが、これがはるひとの出会いだった。よくあるネタではあるが、加納さんが料理すると不思議と一味違う。
「はるひのの、なつ」。かつては売れっ子漫画家だったが、仕事量に押し潰され、逃げるように佐々良に来た男性と、そんな彼を支え続ける女性。立ち直ってほしい彼女は、一計を案じた。叩かれやすい創作者という仕事。彼を奮い立たせたのは…。
「はるひのの、あき」。ユウスケへの依頼は物騒だった。「取り殺したい」という。その相手のことをよくよく調べてみると…反則だろうこれはっ!!! でもこういうのに弱いのよ。ああ、あまりに酷な真相…。これは僕でも知っていたぞ。
「はるひのの、ふゆ」。学校ではいじめられている少女の相棒は…見かけたら驚くだろうなあ。いずれこうしなければならないことを、彼女自身わかっていたのではないか。帰るべき場所へと帰り、冬の先には春がある。未来がある。
そして「ふたたびはるひのの、はる 前」。高校生になったユウスケが、他愛もない作戦に必死になるのが微笑ましい。ところが、ん????? おかしいことにすぐ気づくだろう。「後」に入ると、ユウスケ自身の頭が????? という状態に。そりゃ戸惑う…というより引くよなあ。最後の最後に疑問は解ける。最初の4編を思い返し、なるほど腑に落ちた。
予定より2年遅れで刊行された本作。連作短編集の名手は健在だった。佐々良シリーズ3部作は、駒子シリーズ3部作に並ぶ代表作になるだろう。