今野 敏 SC-01 | ||
スクープですよ! |
デビュー以来不遇が長く続いていた今野敏さんにとって、『隠蔽捜査』で第27回吉川英治文学新人賞を受賞したことが大きな転機になったのは、言うまでもない。
本作は、テレビ局の記者が主人公という設定だが、失礼ながら1997年の初版刊行当時には売れなかっただろう。2009年になってようやく文庫化された裏には、ブレイクに便乗しようという思惑もあっただろうが、本作が警察小説の顔を持つのも一因ではないか。
TBNテレビの看板番組『ニュース・イレブン』所属の遊軍記者・布施京一は、いつも会議に遅刻し、デスクの鳩村には睨まれていた。しかし、布施は数々のスクープをものにしており、キャスターコンビの鳥飼と香山には信頼されていた。
この布施という男は、夜の街に顔が利き、独自の情報網を持っているらしい。毎回危ない橋を渡り、命の危険にもさらされるのに、まったく懲りないのだ。それというのも、布施には強い味方がいた。警視庁捜査一課の黒田である。
憎まれ口を叩きつつ、黒田は布施を嫌ってはいない。布施が情報を流し、見返りに黒田はスクープ映像を撮らせる。布施の情報網は黒田にもわからないが、確かなことはわかっている。布施と黒田は共存関係にあるのだ。毎回、間一髪で黒田が現れるのはお約束。
布施には相手の懐に入る才能がある。街に同化し、相手の警戒を解いて情報を引き出す。天賦の才としか言いようがなく、正直鼻につく面もある。各編とも割とトントン拍子に進んでしまい、読み応えがあるとは言い難い。扱う事件も現実の域を出ない。
そんな布施だが、金や名誉が欲しいわけではないらしい。彼なら局をやめても稼げるだろうが、自身が表に出るのは嫌う。読めば読むほど、布施という男がわからなくなる。本作中最も長い最後の「渋谷コネクション」を読み終え、さらにわからなくなった。
本作の続編として2011年に長編『ヘッドライン』が刊行され、さらに5月には新刊『クローズアップ』が刊行される。長編を読めば、布施という男が少しは理解できるのか?