今野 敏 SJ-03


ユダヤ・プロコトルの標的


2009/11/11

 『特殊防諜班 標的反撃』と改題・復刊されたシリーズ第3作。どちらかといえば戦闘シーンが目立つ前2作とは、やや趣きが異なる。

 警視庁公安部の二人の捜査員が品川埠頭で射殺されたのが、次なる襲撃の発端だった。謎の人物コワルスキーを送り込んだ、敵の目的とは…。

 前2作では強硬手段に打って出た結果、真田とザミルたちに撃退された。今回は、表面上は合法的な手法で日本に足場を築こうとしているのが注目される。その役割を担うのがコワルスキー。彼は当然格闘術に長けているが、知性派でもある。

 ユダヤの血というものをより意識させる内容になっているのが興味深い。ユダヤ人について一般に言われる誤解に、イスラエル人のザミルは珍しく苛立つ。無宗教国家の日本では、反ユダヤ思想の素地はあまりないと思っていたのだが、本作の初版刊行当時、そんなに反ユダヤ思想が流行っていたならば、僕の不明を恥じるのみ。

 少女の強い能力が裏目に出るまさかの展開に苦笑した。高い能力を有するが決して万能ではない真田とザミルを、少女はサポートしてきた。その能力がこんな結果になるとは。4人の中で老人だけは未だ隙を見せず、泰然としている。

 さあ戦闘勃発かと思ったら、今回は交渉で打開しようとする4人。真田が自らの権限を最大限に利用して何をしたかというと…。わははは、そりゃあビビるよなあ。しかし、これで尻尾を巻いて退散するのは、潔いというか呆気ないというか。

 文庫版解説にある通り、シリーズとしては一区切りを迎える。実際、過去に文庫化、復刊されたときは3巻止まりであった。4巻以降は講談社によってようやく日の目を見ることになる。ここまできたら全7巻付き合うしかあるまい。

 真田もまた、自らの血を強く意識していくことになる。詳細はもちろん秘密。



今野敏著作リストに戻る