今野 敏 SJ-07


千年王国の聖戦士


2010/06/24

 『特殊防諜班 最終特命』と改題されたシリーズ完結編。ことごとく任務に失敗した敵陣営は、最終攻撃に打って出る。当然、真田の宿敵たるあの男も動いていた。

 あっという間に読み終えたが、前作『黒い翼の侵入者』と分ける必要があったのかいうのが率直な感想だ。前作をプレイバックしているようで、話を無理に引き伸ばした感が否めない。ここまで付き合ってきて、ちょっと残念な最終巻だった。

 とはいえ、センチメンタルな演出は最終巻らしい。老人も、少女も、その両親も覚悟を決めた。真田の立場も変化し、自らの「血」に従って生きることを決意する。共に戦ってきたヨサレ・ザミルも駆けつける。国家のために。そして純粋に友人のために。

 前作の初版刊行直後に、ベルリンの壁は崩壊し、東西ドイツは統一された。詳しくは書けないが、東西ドイツ統一は敵にとっても一大事。このシリーズが始まった時点で、読者や今野敏さんは東西ドイツ統一を予測していただろうか。臨機応変に生の歴史を取り入れたとも言えるが、それ故に決着を急いだような内容になったのか。

 前作を読んでいれば、「彼」の行動は想定の範囲内だろう。敵側に手を貸してきたある人物の行動は、ちょっと意外だった。彼とて矜持はある。ベルリンの壁崩壊当時から、世界はさらに大きく変わったが、彼は今でもしたたかに生きているのだろう。

 ザミルが語る、日本が欧米から信頼されない真の理由は、傾聴する価値がある。それは日本という欧米から見れば奇異な国家のアイデンティティでもある。その説によれば、日本と欧米が互いにわかり合うことは永遠にない。イスラエルとアラブ諸国のように。

 シリーズ完結から20年近くが経過した現在でも、世界は混沌としている。日本の足元はおぼつかず、イスラエルは相変わらず中東の火薬庫であり続けている。第2、第3のあの組織が、世界各地で虎視眈々と機会をうかがっているのかもしれない。

 今なお奔走しているであろう、真田やザミルの現在を読んでみたい。



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