今野 敏 U-05


ペトロ


2012/05/07

 今野敏はまたまた新たな警察小説を送り出したのか…と思って読み始めたが。

 日本における考古学の権威である鷹原教授の妻が殺害された。現場は自宅で、壁には日本の神代文字と思われるペトログリフが刻まれていた。それからほどなく、埼玉県内の遺跡発掘現場で、鷹原教授の二番弟子が殺害された。そこにはやはりペトログリフが。ただし、最初の事件と違い、メソポタミアの楔形文字だというのだが…。

 殺害現場に何らかのメッセージが残されるというのは、ミステリーの定番である。敢えて今野敏さんがこのパターンに挑んできた。ペトログリフというアカデミックなテーマを持ち込む辺りは一味違う。そのため、捜査陣に強力な助っ人が加わる。

 捜査本部が立ち上がり、主人公の碓氷警部補は、ペトログリフの調査を命じられた。何で俺がと思いつつ、ペトログリフに詳しい専門家を探し始める。そして出会ったのが、日本語が堪能なユダヤ系米国人のジョエル・アルトマン教授だった。

 部外者のアルトマン教授を捜査本部に加えることを、あっさりと認める上層部。当然のように捜査会議にも出席するし、尋問の手腕には捜査員も顔負けだ。こんな構図は、考古学のみならず言語学や民俗学に精通したアルトマン教授でなければ描けない。

 鷹原教授の考古学者としてのスタンスや、研究室内の人間関係、そして研究室を辞めた異端児、尾崎の存在が事件を複雑にする。だが、謎を解いてみれば…。2つのペトログリフの共通点といい、正直真相に驚きはしなかった。僕に学がないからか。

 ただし、ミステリー慣れした読者ほど、自身の「メッセージもの」に対する先入観に気づかされるだろう。今野敏さんらしく、ひとひねりしている。これって何罪に問われるのか。碓氷の存在感が薄い気がしないでもないが、彼でなければアルトマン教授と付き合うことはできなかった。というより、出会うこともなかっただろう。だから碓氷は功労者だ。

 ネタ的にはSTシリーズ向きだったと思う。本作がSTシリーズなら、評価は違っていたかもしれない。さすがのSTでも、ペトログリフにまで精通していないかもしれないが。



今野敏著作リストに戻る