京極夏彦 28 | ||
南極(人) |
集英社の「小説すばる」誌上にて「どすこい」シリーズが連載されていた当時、京極夏彦さんのもう一つのお笑いシリーズ、「南極探検隊」シリーズが並行して書かれていたことをご存じだろうか。前者が単行本『どすこい(仮)』としてまとめられた一方、後者は3編が掲載されたのみで、どうやらお蔵入りかと思っていたのだが…。
幸か不幸か、約10年の沈黙を破ってシリーズは再開。書き下ろしも追加された豪華版として、年の瀬になって単行本刊行されたのだった。最近の京極作品に華がないことを危惧していた一読者としては、この分厚さに挑まないわけにはいかないのだ。
初期の3編「海で乾いていろ!」「宍道湖鮫」「夜尿中」の元ネタ作品は読んだことがないが、読んでいたところで何の足しにもなるまい。売れない作家赤垣廉太郎が、編集者の椎塚有美子にオカルト取材を命じられ、そこに最低の作家南極夏彦が絡み…。この程度のオチのために読者を付き合わせるか。お蔵入りになりかけたのもわかる……。
続く「ぬらりひょんの褌」は、『こち亀』30周年記念アンソロジーに収録された1編。かつてのジャンプ読者としてはなかなか楽しめた。両さん本人が登場しないなあと思っていたら、そんなオチかよ。南極夏彦が登場するのはどうでもいいが、何とびっくりあの人物が。
そして復活後。「ガスノート」の元ネタ漫画はよく知らないが、シリアスな話だったよね? 僕にとっても思い入れの強い作品をこんな風に、「探偵がリレーを……」。オチは読めたぜざまあみろ! ただ、作中の小生意気な書評家の言葉にうなずけないこともない。って、お笑いだろこれ! 書き下ろしの「毒マッスル海胆ばーさん用米糠盗る」は………。
最後に故赤塚不二夫氏とのコラボ作品「巷説ギャグ物語」。小説と漫画の間で葛藤するメタな作品だが、これを読んで少しはわかった。京極夏彦は、小説で赤塚ギャグをやりたかったのだと。しかし、これではできませんでしたという敗北宣言のようだ。実際できていないけども…。現在では、赤塚漫画のような描写は問題になるんだろうな。
二段組かと思えば三段組になったり、字の大きさが変わったり、読みにくいことこの上ない本であった。どうしてスピン(紐)が4本もあるのだろう。