舞城王太郎 13 | ||
獣の樹 |
とても普通だった『ビッチマグネット』から一転、いつもの舞城節が帰ってきた。初期のテイストに近いだろうか。ということは、わけがわからないということである…。
本作の主人公は、14歳くらいに馬から生まれたという。名前もなければそれ以前の記憶もない。正彦の家に引き取られた彼は、成雄と名づけられる。人間としての生活に慣れてきたころ、巨大な蛇に乗った少女、楡が現れた…。
成雄って名前にこだわりでもあるんだろうか。『SPEEDBOY!』や『山ん中の獅見朋成雄』の主人公も成雄だった。人間離れした運動能力は『SPEEDBOY!』の成雄と、鬣が生えているのは獅見朋成雄と共通している。だから何なんだ。
楡を取り囲む謎の組織。二転三転する成雄の出自を巡る謎。宗教から物理まで分散する話題。ほんのり恋愛物っぽくもあり。例によってやりたい放題の作品世界。難物中の難物『九十九十九』と比較すれば、ストーリーは追えるし、エグさは控え目だし、文章自体は近作同様に読みやすい。それでも読み進めるのはやっぱり苦労した。
それはなぜか。解釈しようとしてしまうからだ。内容紹介にある「舞城ワールドの新たな渦に、ただ呑み込まれろ!」というのはその通りで、無心になって読むのが正しいのだろう。でもね、ミステリー読みは無心になるのが苦手なんだよなあ。
そんな中、ミステリー読みの琴線に触れたのは、地下密室の馬鹿馬鹿しい構造。最近の本格はこぢんまりしていて、ここまで弾けていない。某作家の某シリーズに使ってほしいくらいである。なお、「見立て」の部分はさっぱりわかりません。
読者に投げるだけ投げておいて唐突に終わった感があるが、その点も含めて「らしい」のは認めよう。しかし、個人的に、この作品世界を中だるみせず読み切るには、『山ん中の獅身朋成雄』くらいの長さがちょうどいいかなあと思ったのだった。