舞城王太郎 19 | ||
キミトピア |
全7編、ボリュームたっぷりの作品集だが、舞城王太郎さんにしてはソフト路線の作品が並んでおり、覚悟していたよりは読みやすかった。
最初から共感できる「やさしナリン」。優しくて悪いということはない。しかし、他人なら放っておけばいいが、身内となると借金でも背負わされそうで怖い…。そんな夫と義妹に向き合う櫛子は偉い。「添木添太郎」。毎日体のどこかが欠けている少女。そんな彼女と平然と付き合う少年。さらにもう1人の少女が絡み、三角関係に…はならず、不思議な交流が生まれる。冒険あり涙あり、全体的には友情の物語か。ほろ苦い余韻が残る。
最も長く、最も舞城さんらしい「すっとこどっこいしょ。」。ええと、恋の話だっけ進路の話だっけ…。そんな境遇さえネタにする前向きさは凄い。「ンポ先輩」。ふざけたタイトルだが、主人公のような心理はよくわかる。どうして空気とやらに合わせなければならないのか? 終盤のサイコホラー的展開は、真剣に怖い。なぜこのタイトルに…。
「あまりぼっち」。妻子と別居中の「僕」のマンションに、毎日毎日「昨日の僕」が訪ねてくる。結果的に、僕が僕に激励されたのか? 「真夜中のぶらぶら蜂」。子育てが一段落し、妻が何を始めたかというと…目的もなく、遠出してひたすらぶらぶら。事故に遭ってもやめない。夫と息子に何の非もないと思うのだが…。勝手にしてくれ。
そして、第148回芥川賞候補作「美味しいシャワーヘッド」。序盤からエロいと思ったら、その後は話題があっちこっちに飛ぶ。あるエピソードは怖えぇぇぇぇぇ…。作中作にするにはもったいない。最後は無理矢理にきれいにまとめたか?
というわけで、通算4回目の芥川賞落選になったわけだが、どうして最も選考委員に受けなそうな作品をぶつけたのか。もっとも、他の作品も難解ではないはずなのに、感想は書きにくい。読み終えてみれば、わかったようでわかっていないことに気づく。とはいえ、賞に迎合する必要はないし、迎合してほしくはない。