道尾秀介 18 | ||
水の柩 |
『カササギたちの四季』から一転、道尾秀介さんの新刊はズシンと訴える作品だ。
老舗旅館の長男で中学2年生の逸夫は、自分が“普通”で退屈なことを嘆いていた。一方、同級生の敦子は母子家庭で、誰より“普通”を欲していた。文化祭をきっかけに、言葉を交わすようになる2人。少年が知らない、少女の決意と秘密とは――。
逸夫の家では、年の離れた弟の多々朗が生まれたばかり。逸夫の母の珠子に女将の座を譲ったとはいえ、祖母のいくはかくしゃくとして逸夫を叱り飛ばす。逸夫がそんないくを口うるさく感じつつも、慕っているのがわかる。一方で、父の良平は頼りなく映る。ところが、いくは逸夫の両親も知らない秘密を抱えて生きてきた…。
敦子にも幼い妹の史(ふみ)がいた。敦子がずっといじめられていた事実を、逸夫は知らなかった。一旦はやんでいたいじめ。ところが、逸夫のクラスは文化祭でお化け屋敷をやることになり…。敦子は逸夫に協力を懇願する。
逸夫と敦子の関係を何と説明すればいいのだろう。恋仲でも友達でもない。しかし、それ以上に敦子がそんなことを頼む理由を理解するのが難しい。それは僕がとりあえず“普通”だからなのか。敦子が悲壮な決意をしていることはわかる。
うーむ、何回読んでもいじめ描写に慣れることはない。やり口がわかりやすいだけに…。気づけよ逸夫と言いたくもなる。実際逸夫は自分を責めるのだが、同時期にいくの過去も知ってしまった…。嫌な結末が容易に浮かんでしまう。
逸夫なりに考えた解決策(?)は、馬鹿馬鹿しいといえば馬鹿馬鹿しいが、根底には大切な人への思いがある。いくの過去と敦子の過去を、完全に消すことはできなくても、これからをやり直すことはできる。逸夫のアイデアより、敦子の行動の方がすごい。いじめ描写にめげず、最後まで読んでいただきたい。そのくらいは書いてもいいだろう。
本作を語る上で、「蓑虫」が重要なモチーフであることは読めばわかるだろう。