道尾秀介 19





2012/06/13

 『光』という実にシンプルなタイトル。道尾秀介さんの新刊は、多くの大人に少年時代を思い起こさせるだろう。特に、ネットやケータイのない少年時代を送った大人には。

 「夏の光」。みんなで可愛がっていた野良犬のワンダを殺したという疑いが、ある少年にかけられた。証拠写真があるというのだが…。一切反論しない彼の家庭事情。全編のプロローグであると同時に、謎解きの鮮やかさが光る。

 「女恋湖の人魚」。硫黄分が強く、魚が棲めない湖、女恋(めごい)湖。水位が下がって現れたのは…。入るなと言われれば入りたくなる、好奇心旺盛な年頃。謎が他愛ないといえば他愛ないが、キーパーソンは教頭先生とだけ書いておこう。

 ミステリータッチな最初の2編から一転、「ウィ・ワァ・アンモナイツ」。仲間内でも鼻につくあいつを、騙してやる。いたずらにも全力投球する年頃。友人に対する複雑な心情の描写がうまい。それは邪(よこしま)ではない、純(ピュア)だねえ。

 「冬の光」。本作のある重要人物が、少年たちに見せた場所とは。その裏にある思いとは。本来は「夏の光」だが、少年たちの強い意思が奇蹟の「冬の光」になった。さらに、ラストの演出が心憎い。生まれ育った故郷に、読者も思いを馳せるだろう。

 「アンモナイツ・アゲイン」。確かに犯罪だけどもさ、こんな贈り物を真剣に考える彼らを、大目に見てあげたいね。発案者の彼とて、悪気はなかったと思いたい。

 最後の2編「夢の入口と監禁」「夢の途中と脱出」は一続きになっている。ここまで心温まる冒険譚が続いていたが、危機的状況に陥ってしまう…。どうやって切り抜ける? 緊迫しているにも関わらず、その手段の馬鹿馬鹿しさについ頬が緩む。そもそも問題児の彼に原因があるのだが、その裏には少年らしい家族への思いがあった。

 本作は、ショッピングセンターもできてすっかり小綺麗になった故郷を前にしての、回想という形式をとっている。便利さと引き換えに失われたものの、何と多いことよ。



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