道尾秀介 20 | ||
ノエル |
―a story of stories― |
近年ミステリーから距離を置いている道尾秀介作品だが、本作では久々にミステリーらしい仕掛けが施されている。しかし、トリックは決して本質ではない。
母子家庭に育ち、小学校時代から暴力に苦しんできた圭介。彼と中学時代に知り合った同級生の弥生。弥生もまた、唾棄すべき「暴力」に苦しんでいた。そんな2人は、創作に救いを見出していた。物語を書く圭介。絵を描く弥生。2人は絵本を作り始めた。
体に障害があり、学校では誰とも付き合わない少女。彼女の母は、妹を身ごもっていた。唯一と言っていい理解者である祖母は退院を控えていたが、そのことで両親はぎくしゃくしていた。不安に苛まれる彼女は、一冊の絵本に救いを求めていた。
老境の元教師は、最愛の妻を亡くし、生きがいを失っていた。子供はいない。意欲をもって教職に就いたものの、望んでいたような関係は最後まで築けなかった。ボランティアで続けていたおはなし会もやめることになっていた。そして彼は…。
という設定だけなら、辛い話を想像するだろう。実際、これらの人物の境遇は辛い。しかし、話としては独立している3編を最後まで読み通せば、一転して温かい気持ちになれるだろう。ラスト直前までは、バッドエンディングが目に浮かぶ。しかし、結末は実に鮮やかにひっくり返るのだ。帯で道尾マジックと謳っているのは伊達ではない。
そして、全3編は一冊の絵本という共通のアイテムで結ばれている。こういう趣向は珍しくはないし、各編の仕掛けはおなじみの手法ばかり。それでもやはり、「うまい」と唸らざるを得ない。「作中作」を効果的に挿入するなど、細部まで計算されている。
とはいえ、技巧は下手に用いると逆効果にしかならない。本作の、作家道尾秀介の主眼は、あくまで物語を紡ぐことに置かれている。常々、道尾さんは語る。書きたいことを書いているだけだと。これこそ創作の原点ではないか。
敢えて苦言を呈するなら、うますぎてやや鼻につくことかな。すみませんね。