宮部みゆき 56 | ||
ソロモンの偽証 |
第II部 決意 |
今回も軽く700pオーバーの第II部が到着した。第I部『事件』のラストで、1人の生徒は決意した。その決意とは…何と、学校内裁判を開くことだった。
自らの手で真相を解明したい気持ちはわかるが、意地悪く言えば裁判ごっこである。当然ながら、学校側はいい顔をしない。受験を控えた中3の夏休みを、とんだ課外活動に費やそうというのだ。この設定だけでもリアリティには難がある。
実際には学校内裁判など全力で潰されるだろうし、僕が教員や保護者でも止めるだろう。というより、率先してやる生徒などいないだろう。そんな荒唐無稽な設定なのに、ページを捲る手を止めさせないのはさすがである。そもそも第I部から荒唐無稽だった。
学校側の弱みを握って開催を承諾させるものの、学校側は生徒や教員に協力するなと脅しをかける。参加すれば内申に響くだの、実にわかりやすい手だ。それでも、理解を示す教員もいて、中心メンバーはめげずに準備に動く。
裁判ごっこと書いたけれど、ちゃんと判事役、検事役、弁護役がいて、陪審員も揃えた本格的な裁判である。被告人は告発状で槍玉に上がったあの問題児だが、目的は彼の罪を暴くことではない。あくまで、学校内裁判を通じて真相を解明すること。
学校側だけではなく、記者や警察など、大人を相手に堂々と渡り合う手腕は、本物の法曹関係者顔負け。中でも、弁護役を買って出たある少年は、何を考えているのか薄ら寒くなってくる。純粋に弁護したいだけとは思えない。しかし、今のところわからない。凄まじい事情を抱えた彼だからこそ、あの問題児も一目置いたのかもしれない。
色々と、おいおいそんなの聞いてないよという情報が増えるにつれ、学校内裁判の当初の目的から乖離していっている感は否めない。そもそも、真相は彼らが想像もできない形なのかもしれない。彼らは、パンドラの箱を開けようとしているのか…。
第II部は学校内裁判の準備だけで終わってしまう。第III部でようやく開廷というわけである。引っ張ってくれるねえ。個人情報にうるさい現代では、素人の調査に応じてくれる人は少ないだろう。バブル崩壊間近という時代設定には、色々な点で意味がある。