長岡弘樹 01 | ||
陽だまりの偽り |
本作は、2003年に「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞した長岡弘樹さんの、初の短編集である。ところが、デビュー作である「真夏の車輪」は、本作には収録されていない。テイストがまるで異なるからだそうだが。
表題作「陽だまりの偽り」。私立中学の元校長である梶山は、嫁に頼まれた孫への仕送り金を入れたバッグを紛失してしまう。地元の名士を自負する彼が、必死で体面を取り繕う描写に苦笑するが、そのために物騒な発想までするか? 一応丸く収まったのか…。
「淡い青のなかに」。夫と離婚し、家庭に仕事に奔走する母。ぐれた息子は今夜も警察のやっかいになる。ところが迎えに行った帰りに…。おいおいおいおい、未遂とはいえ本気で検討するかっ!!! 結果的には和解できてよかったのか。よくはないが…。
本作の一押し「プレイヤー」。市役所で出世コースに乗っている男に、間もなく内示が出ようとしていたが…まさかの大失点に見舞われる。弁解の余地はないが、それでも責任回避を探る、哀しい性。出世競争に縁がない僕に、彼らの悲喜こもごもは理解できまい。
「写心」。新聞社のカメラマンから転落し、今では借金取りに追われる身。そして、こんな呆れた計画を立てたのだが…。このジャンルには前代未聞の展開に、犯人は大いに焦る。彼自身は何も救われていない気がするが、これが転機になるか。
「重い扉が」。息子は友人と帰宅途中に不良に絡まれた。息子に怪我はなかったが、友人は重体。やがて犯人の1人が逮捕され、警察は面通しを依頼してきた。ところが、息子は倉庫に立てこもり…。自分の体面しか考えない父と比べ、息子の思慮深いことよ。
意外性に富んだ全5編は読み応え十分。『教場』の感想にも書いたが、やはり短編ミステリーの旗手として鳴らした横山秀夫さんの初期作品に通じるテイストを感じる。力量は互角と言っていい。一方、大きな違いがある。一時は超ハイペースだった横山さんに対し、長岡さんは寡作だ。もっと読みたい。でも、納得できるものを書いてほしいとも思う。