中田永一 03 | ||
くちびるに歌を |
中学の学校行事で合唱コンクールがあった。クラス対抗で課題曲と自由曲を歌うのだが、本作に登場する男子たち同様、僕もかったるいと思っていた。
舞台は長崎県五島列島にある中学校。代理の音楽教師として東京から柏木先生がやってきた。すると、女子だけだった合唱部に柏木先生目当ての男子が加入してきて…。女声合唱か混声合唱か、晴れ舞台のNコンに向けて大問題勃発?
桑原サトルと仲村ナズナ、2人の生徒の目線で交互に描かれる。2人の家庭事情には触れずにおく。サトルは「ぼっち」を極めたと自認するほど人付き合いが苦手。3年生になるまで部活をしていなかったのに、なぜか合唱部へ。
元々合唱部員のナズナを始め、女子はすんなりと男子を受け入れない。案の定、柏木先生がいないと露骨に不真面目。男子と女子の間だけでなく、女子の間にも溝が生まれる。女子だけで出場すべきでは? こういう展開は青春小説の王道だねえ。
作中の課題曲『手紙』は、2008年NHK全国学校音楽コンクール中学校の部の実際の課題曲であり、作詞作曲のアンジェラ・アキ自身もシングルとして発表した。課題曲に因み、15年後の自分に手紙を書くことを指示される部員たち。作中に挿入されたこの手紙が、実に効果的だ。アンジェラ・アキも冥利に尽きるだろう。
色々なトラブルを乗り越え、コンクール当日。前日に会場の佐世保に入り、自由時間を満喫する面々だが、固い決意を秘めていた部員が1人…。地味なサトルが大活躍するとだけ書いておこう。そして当日、出番の直前になって緊急事態…。クライマックスでは、現代的なアイテムを巧みに使い、感動的に盛り上げてくれる。
やってみなければわからない、合唱の達成感。中学の経験から、一応僕にもわかっている。決して忘れてはならない今年、僕は読書に救われたと思っている。年の瀬になって出会えた本作は、素直に心に染みる作品だった。素晴らしきかな青春。