沼田まほかる 03


猫鳴り


2012/01/09

 薄いからという消極的な理由で手に取ってみたが、内容はかなり濃い。

 三部からなる本作は、ミステリーではない。モンと名づけられた1匹の雄猫を巡る、全体的には切ない物語だ。しかし、単純に切なさを押し売りしているわけではない。

 第一部。ようやく授かった子供を流産し、失意の中で暮らす中年夫婦のもとに、1匹の仔猫が現れた。やまない鳴き声に不快感を隠さない信枝。仲睦まじい母子への苛立ち。残酷な信枝の設定に胸を突かれる。夫婦の心の傷を、迷い猫が癒すのかと思いきや…。

 ところが、何度も何度も捨てにいくのである。夫の藤治に頼んで遠くに捨てに行かせたりもする。それでもまた現れる。解説の豊崎由美氏は、この第一部を読むのが辛かったようで、どうしてさっさと飼ってやらないんだと思ったそうである。

 僕も実家で猫を飼っていたので、猫は好きだしわからないでもない。でもね、動物を飼うって責任を伴う行為だ。動物が好きな人ばかりではないし、簡単に飼う決断はできないだろう。ましてや信枝には。まあとにかく、モンを飼うことになって第一部は終わる。

 第二部。父子家庭に暮らす少年は、ろくに学校にも行かず、心は荒んでいた。そんな彼が、なぜか仔猫を飼うことになる。闇を抱えた少年の心理描写が見事だが…第一部と何の関係がある??? 最後の最後にようやく繋がるのだが、こじつけというか、浮いている感がある。これはこれで膨らませて別の物語にした方がよかったような。

 第三部。一気に時は流れ、モンは20歳になっていた。人間だったら何歳だ? 刻一刻と死に向かうモンと、藤治の揺れ動く心情。読みながら実家の猫を思い出した。名ハンターだったが、衰えて高いところに上れなくなっていった。モンのように。だが、不思議と藤治のような悲みは感じない。死を自然の摂理として淡々と描いているからだろうか。

 どうしても気になるのは、第一部で夫婦の家にモンを見にやって来た少女の位置づけである。少女は第二部でもキーパーソンなのだが、僕にはその存在をうまく消化できなかった。使者のようなものなのかなあ。使者にしては無責任な気もするが…。



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