岡嶋二人 04 | ||
タイトルマッチ |
元横綱の某プロレスラーが、リング上でこんな台詞を言い放ったことがある。
「この八百長野郎!」
…あのなあ、プロレスラーがそれを言ったら身も蓋もないというもんだろう。本気でやり合ったら何人死人が出るのかわかったもんじゃない。
それはさて置き、一般に(?)八百長といえば故意に負けることを指す。多少の演技力が要求されるにせよ、それほど難しいことじゃない。しかし、逆に必ず勝てと言われたら?
元ボクシング世界ジュニア・ウェルター級チャンピオン、最上永吉の息子が誘拐された。彼を破ったアルフレッド・ジャクソンに、義弟が挑むタイトルマッチの二日前のことだった。相手をノックアウトで倒せ。それが犯人の要求だった。さもなくば、子供の命はない…。
タイトルマッチに挑む琴川三郎としては、たまったものじゃない。ただでさえ重圧が襲う大一番に、タイトルだけではなく義兄の子供の命も懸かっている。しかも、ノックアウトで勝てとは。判定勝ちでは、タイトルが手に入っても子供の命がない。そんな三郎に、さらなるアクシデントが追い討ちをかける。
理不尽な要求の謎や、ボクシング界の裏事情が絡んだ事件の展開はもちろん面白いが、やはり本作の読みどころはタイトルマッチのシーンにある。文章を超えたその迫力には、手に汗を握らずにはいられない。三郎とジャクソンが拳を交える音、両者の荒い息遣い、飛び散る汗…。もはや心境は、名作『あしたのジョー』の丹下段平である。
『あしたのジョー』に涙したあなたにも、『はじめの一歩』に飽きてきたあなたにも、そして格闘技には興味がないあなたにも、是非お薦めしたい。一気に読んでしまうこと間違いなし。