岡嶋二人 06 | ||
どんなに上手に隠れても |
「人さらいの岡嶋」の称号を授けられたのはいつからなのか。初期の誘拐ものの佳作である本作が、大きく作用したのは間違いないだろう。
売り出し中の歌手が誘拐されるという、匿名の電話が警察に入る。念のため捜査員を派遣すると、電話はいたずらではなかった。往来の激しいテレビ局から、白昼堂々結城ちひろは誘拐された。身代金は一億円。対応を迫られる所属事務所やCMスポンサー。
後に『99%の誘拐』でテクノロジーを駆使した誘拐を描く「人さらいの岡嶋」だが、こちらは言うなればアナログな誘拐か。しかし、計画の緻密さと周到さは互角。道具立てといい、演出の派手さならこちらが上か。ヘリコプターまで出てくるのである。
誘拐の手段そのものは簡単。第一の読みどころは、身代金一億円の受け渡し手段である。運搬役に指名されたのは結城ちひろのマネージャー西山玲子。お約束通りに監視体制を敷く捜査陣だったが…。タネを明かされれば実に単純なのだが、盲点だったよなあ。地団駄を踏む捜査陣。ん? 鮮やかさの一方で、どこかちくはぐな…。
まんまと身代金をせしめられ、結城ちひろは無事に戻った。しかし、ここからが本番なのだ。誘拐事件発生後から密かに進められたある計画とは。それが第二の読みどころ。ヒントさえ書けないが、こういうのは現実に可能なんでしょうか業界の方々。
そしてやはりというべきか、転落していく図が第三の読みどころ。結城ちひろにしてみれば、自分の与り知らないところで勝手に動いていたのだから迷惑な話である。しかし、マスコミは見逃してくれない。こうなりゃ事件を解明する以外に道はない。
終盤に株の話が出てくる。今でこそ、普通のサラリーマンでもネット証券で株式投資する時代だが、この当時はほとんどの読者には無縁だったはずである。このネタを使う必然性は正直ないと思うが、事件解決の鍵として用いている点には先見性を感じる。
結論は、欲を出しすぎるとろくなことがないってことか。