乙一 06


暗黒童話


2001/11/10

 まずは乙一氏に謝罪しよう。『死にぞこないの青』の感想では偉そうなことを書いてしまってすみません。読んじゃいないだろうけど…とにかく、ごめんよ。と言いたくなるくらい、本作『暗黒童話』は面白かった。

 乙一氏にとっては初の本格的長編になる。これは紛れもなくホラーだ。同時にミステリーだ。そしてぐっと迫る物語だ。これはお薦め…と言いたいところだが、グロい描写が多いことは触れておかねばなるまい。

 はあ〜 ホラー書くな〜ら ちょいと眼球えぐり あよいよい♪…という具合に鴉(からす)が眼球をくわえるのはほんの序の口。こういうのが苦手な方にはお薦めしません。確かにグロい。けど、グロいだけじゃない、いい話なんだけどなあ…。

 眼球移植を受けた記憶喪失の少女。移植された眼球は、前の持ち主の記憶を映し出した。少女は映像の源を求めて旅に出る…という物語だが、眼球移植なんぞできるかい! と当然思うだろう。もちろんできないに決まっている。ましてや、記憶を映し出すなんてあるわけがない。でもいいじゃない。ホラー(乙一氏曰く「ホラ」)なんだから。

 移植された眼球が映し出す、様々な記憶の断片。それらは次第に一つの真実へと収束していく。これって本格ミステリーじゃないか。本作には実に周到な罠が仕掛けられている。この構成力には素直に脱帽しよう。そこの本格好きなあなたも、是非いかが?

 『石ノ目』に推薦文を寄せた綾辻行人さんのファンには、特にお薦め。『眼球綺譚』を、『フリークス』を彷彿とさせ、作中作まであるんだから。パクリじゃないぞ。乙一氏の登場は、綾辻さんにとって嬉しくもあり、脅威でもあるに違いない。二人には同じ血が流れている。

 『死にぞこないの青』の後に本作を読んだのは、良かったかもしれない。と、いつも一言多いな僕は…。短編の実力は十分に証明済み。これからは長編も積極的に書いてほしいな。



乙一著作リストに戻る