Overseas Sir Arthur Conan Doyle | ||
回想のシャーロック・ホームズ |
The Memoirs of Sherlock Holmes |
※以下の文章では内容と背景に触れている箇所があります。また、本作より先に『シャーロック・ホームズの生還』を読まないことをお勧めします。
シャーロック・ホームズの第二短編集である。『シャーロック・ホームズの冒険』の刊行後、1982年12月から1983年12月にかけて、再び「ストランド・マガジン」に掲載された11編を収録している。ここでシリーズは転機を迎えることになった。
シャーロック・ホームズのシリーズは、いわゆる本格ではない。ホームズの推理は、鋭い観察眼と過去の犯罪事例などの豊富な知識に裏打ちされているが、時に直感的で、いささか断定気味だ。だからといって、魅力は一切失われていない。ホームズがすることに間違いはないと思わせてしまうのが、不思議なところである。
ホームズ物の人気があまりにも加熱したことを、作者のドイルは不本意に思っていた。「最後の事件」によって連載を打ち切った理由を、僕は以前このように聞いていた。創元推理文庫版解説によると、結核を患った妻がスイスで療養するのに同行するという理由も大きかったらしい。これは勝手な想像だが、毎回読者の期待に応えてネタを考えることの苦労と重圧が、何よりも大きかったのではないだろうか。
以下、各編に簡単に触れておく。
自分を信用しない依頼人に対し、シャーロック・ホームズが見せた茶目っ気にニヤリ。解決の意外性、論理性。本作中、ホームズ物の醍醐味が味わえる数少ない一編。
真相はさすがに時代がかっているが、こういう問題は今でも根強く残っているだろう。というか、シャーロック・ホームズの推理は大外れだよ!
「赤髪連盟」を彷彿とさせる1編。なるほど、納得はしたけれど、こんな手口が通用するのは当時ならでは。うまい話の裏には…。
学生だったシャーロック・ホームズが手がけた、最初の事件。友人の父の壮絶な過去がすごいが、ホームズ自身が解決したのは暗号だけじゃないか?
この儀式書を読んで代々何とも思わなかったマズグレーヴ家って…。
これ、手紙の挿絵を日本語にしちゃ意味がないだろう、東京創元社殿…。オリジナルの手紙の挿絵は、"The Complete Sherlock Holmes"で見ることができる。
シャーロック・ホームズの短編って、過去の秘密が絡む作品が多いなあ。惜しげもなく短編のネタに使うのだから贅沢ではある。
これまたうまい話。執筆者のワトスン曰く、「ホームズの演じた役割が大きくないかもしれないが、事件全体が非常に変わっている」。その通り…。
シャーロック・ホームズに兄がいて、しかもより高い能力を持っていることが明かされる。その兄弟がタッグを組んだ割にはすっきりしない結末…。
依頼人に対し、シャーロック・ホームズが見せた茶目っ気にニヤリ…というか人が悪いなあ。名探偵らしい見事な作戦勝ちにして、面目躍如。
連載を打ち切るためのやや強引な一編。モリアーティ教授一味との闘いについて詳細を知りたい、というのはもはや叶わぬ夢。
しかし、読者の熱は冷めることはなかったのだった…。
邦題は創元推理文庫版による。