辻村深月 19


鍵のない夢を見る


2012/05/25

 辻村深月さんの作品としてはやや異質かもしれない。厳しい描写もあるが、根底には優しさが流れている。僕は辻村作品をそのように認識していたが、本作はどうだ。ここに登場する5人の女性たちを、辻村さんは突き放しているように感じる。

 「仁志野町の泥棒」。小学生の頃、ミチルの小学校に転校してきた律子。優美子と3人で仲よくしていたが、ある時、律子の母に関する噂を耳にした。やがて疎遠になり…。本編だけは、従来の辻村作品らしい。少女時代の苦い記憶。決して戻れない過去、現代。

 「石蕗南地区の放火」。短大卒後、地元で共済関係の職場に入り、16年。ある日、笙子は消防団の詰め所で発生した火災の現場に出向く。すると、そこにはかつて言い寄ってきた男が…。読みどころは笙子の自意識過剰さか。若い後輩への嫉妬と、相反する感情。女心は難しいとしか、僕には言いようがありません…。

 「美弥谷団地の逃亡者」。くだらない男と何となく別れられない、ありがちな女の子の話と思いきや…。現実にあった事件とあまりにシチュエーションが似ていて、笑うに笑えない。辻村さんが参考にしたのだとしたら、悪趣味ですぜ。

 本作の一押し、「芹葉大学の夢と殺人」。僕はもう自分の生活を守ることしか考えていないから、若者が夢を語るのはいいことだと思うが、それにしても身の程知らずな…。そんな男とはさっさと別れろと言うのは簡単だが、割り切れないのが人の心。卒業してもどうしても忘れられない。これも愛の形なのか、僕にはよくわかりません…。

 最後の「君本家の誘拐」は変化球だった。間の3編と比較すれば、共感できる女性読者は多いのではないか。とはいえ、男性読者も考えさせられる1編だ。現実社会では、不幸な結末を迎える事例が後を絶たないのだ。男も襟を正すべし。

 婚活ブームな昨今にあって、『鍵のない夢を見る』というタイトルは、実に上から目線ではないか。高望みするなとも解釈できる。でも、どこからが高望みなんだろうね。



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