柳 広司 17 | ||
最初の哲学者 |
『最初の哲学者』というタイトルから、『パルテノン』のような古代ギリシアを舞台にした作品を想像した。実際その通りだったのだが、面白かった『パルテノン』と比較すると…。
と書くと誤解されそうだが、面白いことは面白いんですよ。僕はかつては星座好きで、ギリシア神話の知識がそこそこあったので、ギリシア神話をネタにした作品が多い本作は、個人的には興味深く読めた。実在の人物が出てくるエピソードは少ない。
ギリシア神話に興味がない読者には辛いかもしれないが、一切の予備知識なしに読めば、ギリシア神話の中の神々が喧嘩もするし嫉妬もすることを意外に思うだろう。神様のくせして俗っぽいし人間臭い。仏様のような悟りの境地にはほど遠い。最高神ゼウスさえも然り。ギリシア神話って、堅苦しくなければ教訓臭さもない読み物なのだ。
ところが、1編1編は掌編と言うべき短さ。全13編で200pに満たない。遅読の僕でもすぐに読めるのはいいのだが…短すぎてあまり印象に残らないんだよなあ。矢継ぎ早に掌編を読むと、先に読んだ内容をどんどん忘れてしまう。1編1編は面白いのに。
最後の「ヒストリエ」だけはやや長く、一応全体のまとめになっているか。テミストクレスとかペリクレスとか、『パルテノン』に描かれた人物の名も散見される。なるほど、神話ばかりなのには理由があったわけである。それにしたって、印象の薄さに変わりはない。
全編を読み終えると何かが浮かび上がるとか、もう一ひねりを求めてしまうのはミステリー読みの性か。作品によっては、繋がっているものもあるけれども。
敢えて印象に残った作品を挙げると、ブラックな味わいの「オイディプス」や「恋」かな。収録作品を絞って、各編をもう少し長くした方がよかったかも。時間潰しにはちょうどいいけれど、読み応えを求めるならば他の柳広司作品をお薦めしたい。