もう一度行ってみたいブルターニュ(2)

    モン・サン・ミッシェル
     

 サン・マローからドールという小さな駅で列車を乗り継いでポントルソン
まで1時間はかかった。そして、駅前からバスに乗って約20分、フランスの

大地というにふさわしい丘を越え、大きく左にカーブしたとこ ろで突然モン
・サン・ミッシェルが見えた。
広い灰色の砂の海に浮かぶ巨大な修道院、天
を突かんとするばかりの尖塔がだん
だんと迫って来る。胸の鼓動が聞こえる。
***
 バスから降りると、その勇姿に再び驚いた。まるで、頭から
飲み込まれて
しまいそうな迫力である。修道院の入り口までは
おみやげ屋やレストランが
ずらーっと並んでおり、しきりに呼
び込みをしているのは全くの興醒めであ
った。石畳の狭い坂道
を30分位登ると、急に視界が広がり干上がった海が見
えた。
青い空とどこまでも広い海、そして、潮風が快く私たちを迎えてくれ
た。

 見学コースの入り口前は大きな広場になっていて、観光客が三々五々と集
まって来る。そして、決められた時間になると重
い大きな扉が開かれるはず
なのだが‥‥

 イヤな予感! 私たちが扉付近に行くと、
「日本人はアメリカ人と同じグループに入って、英語で説明を聞いてくださ
い。今回はドイツ人の番です。」と言われた。
私たちにしてみれば英語だろ
うとドイツ語だろうと、むずかし
い説明などほとんど分からないのだから同
じこと、むしろ早く
中に入りたかった。そこで、ドイツ人のグループの後に
付いて
入ろうとすると、リンガフォンの宣伝にそっくりな白髭の、胸厚の体
格の良いおじさんが、

“NON!NON!”と言って絶対に入れてくれない。
「何だ。こっちがいいと言ってるんだからいいじやないか。」と日本語で口
をとんがらかしても、全く動じない。
結局、20分位待たされて入場すること
になった。


入り口広場から見た海はどこまでも広く
心が洗われるようであった

 扉の中は 薄暗く、あの教会独特の重々しい空気がただよっていた。高い
小さな窓から外の白い光が弱く差し込んでいる。ステンドグラスが美しい。
グラマーな美人の案内嬢は、フランス語なまりの
英語でしきりに説明して
いる。その声だけが重い空気の中に染
み込んでゆく。そして、時々、人々
のささやきや感嘆の声が静止し
た空気を動かす。ほとんど分からない私た
ちは、少し惨めな気
持になりながらも、後の方で皆と同じように説明にあ
わせて
頭を動かしながら聞いている。しかし、それも15分位が限度である。
私などほとんどすねた状態でグループから離れて、祭
壇に近づいたり、ブ
ロンズに見入ったりで、ただただ説明が終
わるのを待つのみである。
 聖ミッシェルのお告げによって8世紀に建てられたというロマネスク建築
のこの教会の壮大さは、ただその場に立った
だけで十分に伝わってくるも
のがあった。又、二本の円柱
の聳えるゴシック様式の回廊や“Merveille”
(驚異)と呼ば
れる3つの大ホールはそめ時代の力の象徴とさえ思えた。
確か
にこの修道院は、百年戦争の時には英仏海峡に浮かぶ要塞としてその
役目を十二分に果たした。長い歴史の中では単に僧院と
してのみ存在して
きたわけではない。


15〜16世紀に
建設された
ゴシック様式の
精華

 ***
 旅は道ずれ

 帰り道、ヒッチハイクに失敗した私たちは、定期バスに乗ってボント ルソン
に戻った。地図にはない町であったが、街道筋に栄えた
意外に大きく、落ち着
いた町であった。事前に調べたところに
よれば、このボントルソンからの帰り
の丁度良い列車はないの
で、駅前からバスでサン・マローヘ戻る予定であった。
ところ
が、駅の時刻表を見ると、ローカル列車が数分後にあることに なっている。
『ラッキー!』バスで帰っても良いが、鉄道ならバカンス・ パスがあるので
自由に乗れるのだ。時刻表の注意欄を見ると、“Sam Dim Fer”と
ある。これは
行き先に違いないと思い、ト
ーマス・クックの時刻表の地図で探してみたが分
からない。
バスの出発時刻も近づくし、少し不安になってきた。
「列車はないのかなあ。」
「ム・・・・さっきのアメリカ人、土、日、祝日しかないと か言ってたよ。」
と女房。何のことはない、“Sam Dim Fer”とは
行き先ではなく、『土、日、祝』
運転日のことだったのだ。

 ふと外を見ると、朝のバスで一緒だったヴェトナム人(?)風の若 いカップル
がタクシーに乗りかけている。
『この際何人でも
構わない、この機を逃したら・・・・』と思い、
「どちらに行かれるのですか。」と日本語で大声で尋ねると、
「ドールまでです。」と若いご主人が日本語で答えた。
「すみません。ご一緒させてもらえませんか。」
「どうぞ。2人でも4人でも一緒ですから。」
 ***

フランスバカンスパス:フランス国鉄乗り放題
日本国内で購入し、使用初日に駅で印をもらう
ドール駅の女性の駅員さん
気軽に一緒に写真を撮らせてくれた

 サン・マローヘの乗り継ぎ駅のドールまでは、タクシーで20 分位であった。
「何時の列車に乗るのですか。」と運転手が聞くと、
「13時14分です。」とご主人が流暢なフランス語で答える。
「急がねば‥・」と言って、運転手はアクセルを目一杯ふかす 。楽に100Km/hを
越えている。車はドールを目指してひ
た走った。
 京都から来たという新婚旅行中の若夫婦は、パリに4日滞在の後、列車でブ
リュッセルに向かうと言っていた。