診療小話(ああ、勘違い)
『第2話』
これまた、私が研修医時代の話です。
田舎の病院で往診に行く仕事がありました。
看護婦さんが一緒に来てくれるのが普通ですが、
この日は往診担当の看護婦さんが休んでおり、
事務長さんの運転するダイハツミラの助手席に乗って
私がひとりで往診しなければなりませんでした。
事務長さんはダイハツミラを道路の端に止めて、
「先生、この家です。高木シゲさんの家は。私はここで待ってます。」
「こんにちわ〜。○○病院から来ました。医師の吉本です。
高木シゲさんの往診に参りました。」
「あ〜先生。待ってました。昨日からしょんべんがでなくて苦しがっとるんです。
どうにかしてやって下さい。」
尿が出ないと聞いて、私は患者さんと家族の前で前立腺肥大による尿閉の話をしました。
もし、前立腺肥大のため尿閉を起こしているならこの往診先では処置が出来ないこと、
病院にお連れして導尿してやらなければならないことを話しました。
家族は私の話をうなずきながら熱心に聞いてくれました。
「先生にすべておまかせするしかありません。よろしくお願いします。」
「わかりました。ではちょっと診察してみましょう。すみません。高木さん。
ちょっとオシモの診察しますよ〜。」
と言って、おむつをはずした瞬間、私は思わず声をあげました。
「あっ。」
「えっ、先生。ばあさん何か悪い病気かね。」
「ばあさん??」 ばあさんって、高木さん女性なの。
そ〜か、それでおちんちんがないわけだ〜。
実は、私は高木シゲさんって最初から男性の名前だと思い込んでいたんです。
そして、顔をみてもおばあちゃんだとは思わなかった。
髪の毛もあんまりなかったし、着てる服も紺色だったし、おむつは男女兼用だし。。
それからが大変だったのは、想像できると思います。
「先生、うちのばあさんのその前立なんとかとやらは相当悪いのかね。」
女性の患者さんに前立腺肥大の診断を下したドクタ−Yは、ひたすら謝りました。
名前が男性と間違いやすかったなんて言い訳もきかない。
顔みたあと説明してるんだもんな〜 シゲばあちゃんごめん。
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