第109回

延髄外側部障害症候群を発症した68才女性

01.1.21

延髄外側部障害症候群を発症した68才女性

68才女性が突然ふらつき、目のかすみ、歩行困難が出現し救急車で近くの救急病院に搬送されました。頭蓋内病変を疑われCT、MRIの検査を施行されました。しかし、明らかな異常所見がなく、近くの医院に転床となりました。その後も症状が改善せず、発症から1週間が経過して私の病院に紹介となりました。

入院時の症状は、右に眼裂狭小、瞳孔縮小を認め、右の顔面の温度覚、痛覚の消失も認めました。また、反対側の左に上下肢の温痛覚の障害を認めました。左手で熱い湯のみを持っても熱いと感じない状態でした。MRI上、右の延髄後外側に梗塞を認めました。この部位の脳梗塞は、たいへん特徴的な症状が出るために延髄外側部障害症候群(Wallenberg症候群)という名前がついています。
この病気の特徴は、傷害された延髄外側部の症状として、同側にHorner症候群(眼裂狭小、瞳乳縮小、発汗減少)、顔面の温度覚、痛覚消失(感覚は保持)、軟口蓋麻痺、小脳性運動失 調。反対側は半身の温度・痛覚の障害が見られ、位置覚・振動覚は保たれる。(右の障害の場合、右顔面と左上・下肢、体幹の温痛覚障害が生じることになります)
この理由は、感覚線維の交叉する部位が感覚の種類により異なるためなのです。温・痛覚を伝える線維は末梢神経から脊髄に入ったあとすぐ交叉し、反対側の脊髄・視床路を上行し、延髄外側部を通ります。これに対し、位置覚と振動覚を伝える線維は脊髄に入ったあとそのまま後索を上行し、延髄で交叉しています。
交叉する際には延髄の内側へ近づくため、延髄外側症候群では障害されないわけです。
同様のことは、延髄で交叉する錐体路についても当てはまり、延髄外側症候群では運動麻痺のないのが特徴です。
この患者さんは右下肢に強い小脳失調が残っており今後リハビリテ-ションを十分に行なわなければならないと思われます。社会復帰に向けて歩行訓練を開始しました。もうすぐリハビリ病院に転床予定です。

MRI T2強調画像

延髄の後外側に脳梗塞を認める

やや白っぽくみえる

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