第11回

妊娠中の立ちくらみについて

00.5.23

私は産婦人科ではありませんが、妊娠中の立ちくらみについて良く質問を受けます。娘や嫁が妊娠してから立ちくらみするようになった。原因は何ですか?どんなことに注意すれば良いのでしょう?

あれこれ説明はしていましたが、なかなか分かり易く説明できませんでした。最近私の親しい産婦人科の医師が熊本日々新聞社の「まいらいふ」という雑誌にQ&A形式で非常に分かり易く解説していましたので、皆さんに紹介したいと思います。

この記事を書いたのは熊本大学病院の産婦人科助手である大場隆先生です。私が熊本大学の医学部学生時代の同級生で、写真部の仲間です。ワインが大好きで、ソムリエなみの知識の持ち主です。

大場先生の許可を得て、今回この記事を掲載することにしました。非常に分かり易い説明ですので、参考にして下さい。

まいらいふQ&A

「妊娠3カ月ですが、買い物途中立ちくらみが起こったりして、倒れるのではないかと心配です。友人からは鉄欠乏性貧血ではないかと言われました。これから出産を控えてどのようなことに注意すればよろしいでしょうか?」

回答
たしかに貧血が原因となって起きた症状かもしれませんが、あなたの場合は低血圧、いわゆる起立性低血圧ではないかと思います。鉄欠乏性貧血については、かかりつけの病院で血液検査をしてもらえばすぐにわかります。


妊娠中に立ちくらみを覚えるのは珍しいことではありません。意識は保たれていることがほとんどで、気を失うほどの発作となることは、まずありません。立ちくらみには、いくつかの原因が考えられます。まず、妊娠中は、
妊娠を維持させるホルモンの作用によって血圧の調節が鈍くなっています。急に立ち上がったりすると、高くなった頭に血液を供給するのが追いつかないため、低血圧の症状が出るのです。頭のところだけ暖かいような暖房の効いた部屋や公共交通機関の中、それから厚着をしているときなどに、こういった症状が出やすいようです。


立ちくらみを予防するためには、
急に立ち上がらず頭の高さをゆっくりと上げていくように心掛けて下さい。布団から起きるときを例に取れば、まず上体を起こして、一息ついたあとに膝立ちし、それから立つようにします。電話や来客のときに、椅子から飛び上がって出ていくようなことは避けましょう。
気分が悪くなり始めたら、落ちついて
ゆっくり深呼吸をし、服の襟をゆるめ、建物の外に出たり、窓を開けて外気に当たるようにしてください。立ちくらみが胎児に悪い影響を与えることはありません。血流が不足しているのはあなたの脳であって、胎児ではないのです。立ちくらみがおきても、横になれば数分で楽になります。足を高くした姿勢をとるといっそう効果的です。外出中であれば近くの椅子に座って下さい。もし、街の中で急に気分が悪くなり、腰掛けるところが見つからない場合は、片膝をついて頭を垂れ、ちょうど靴紐を結ぶような姿勢をとって気分がよくなるのを待つとよいでしょう。


立ちくらみを起こすもう一つの原因として、
低血糖が考えられます。妊娠中は血糖のコントロールも鈍くなっていますので、長時間空腹のままで過ごしていると、すぐに低血糖になってしまうのです。軽い間食をとるようにし、気分が悪くなりはじめたらすぐに食べられるよう、飴やレーズンなどを持ち歩くことをお勧めします。ただし、栄養の取りすぎは禁物です。食事の量を増やすのではなく、分割して食べるという意識を持って下さい。
また、
妊娠後期になってお腹が大きくなると、仰向けに寝ていても立ちくらみと同じような症状が起きることがあります。これは仰臥位低血圧症候群とよばれるもので、子宮によって腹部の大静脈が圧迫され、足から心臓への血液の還流が悪くなった結果、脳の血流が低下するものです。この場合は、側臥位になるか、仰臥位でも背中を軽く起こした姿勢をとると静脈の圧迫が軽くなり、症状が軽くなります。
もし立ちくらみが起きたら、次の健診のときでいいですから、かかりつけの先生に立ちくらみの頻度、程度などを報告して下さい。あまり頻回に起こるときは、詳しい検査が必要となることもあります。

熊本大学医学部産科婦人科学教室
助手
大場 隆

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