第22回

突然書字ができなくなった75才女性

00.6.29


診療日記
00.6.29

75才女性が午後2時頃、書字ができなくなりました。
徐々に症状がすすみ近くの医院を受診、脳卒中疑いで私に紹介入院となりました。
MRI 上、左の視床というところに脳梗塞の所見が認められました。
今回の右上肢の麻痺の原因と思われました。この患者さんは高血圧の治療中でした。
高血圧症などが原因で動脈硬化がすすみ今回の血管がつまったものと思われました。

脳梗塞とは

脳梗塞は脳に血液を運んでいる血管が細くなったり,つまったりして、
脳に酸素や栄養がいかなくなり、神経細胞が死んでしまうために起こる病気です。

症状は侵された血管の場所と梗塞の大きさによって異なりますが、
意識がなくなったり、口がもつれたり、思った事が言葉にならなかったり、
言葉が理解できなくなったり、片側の手足が麻痺したり、しびれたり、
めまいがしたり、目の焦点があわなくなったりなどさまざまです。

脳は血液がながれてこないことに非常に弱い臓器で、
血液が5分間でも完全にとだえるとその部分の脳が死んでしまいます。
そのため、脳梗塞に対してはできるだけ早期の治療が必要となります。

治療としては、脳の血液をさらさらにして流れやすくしたり、
血液が血管のなかで固まっているのを溶かす薬が使われます。
症状の程度によってはリハビリテーションが必要ですが、
リハビリテ−ションをしても後遺症の残る場合があります。
急性期を過ぎたら再発作を防ぐために血小板(血液のなかにあり、
血を固める役割をする)の働きを抑える薬を飲んだり、
脳のはたらきを高める薬を飲んでもらったりします。

脳梗塞のひとつの形として言葉が出なかったり、
手足の力が抜けたり、しびれたりといった症状が一時的に起こって、
しばらくして良くなるという経過をとるものがあります。
これは一過性脳虚血発作(TIA)とよばれ、大きな脳梗塞の前触れである場合があります。

こういった発作のなかには、くびの太い血管(頚動脈)が細くなって
脳に流れる血液が足りなくなったり、血管の内側が掘れて、
そこにできた血栓がとんで脳の血管をつめるために起こってくるものがあります。
こういった場合には血管の壁が厚くなったり、掘れている部分を取り除いて、
血管を広げる手術が行われます。

また頭のなかの太い血管がつまったり、細くなったりして、
脳へ流れる血液が足りなくなっている場合には、頭皮の血管を脳の表面の血管に
つないでやり、脳の血液の流れを良くする手術
が有効な場合があります。
こういった手術は脳梗塞の症状が軽くなっている場合でも、
再発作や症状の進行を抑えるために行われることがあります。

心臓が悪く、特に心房細動という不整脈のある患者さんでは、
心臓のなかに血の固まりができやすく、それがはがれて脳にとんで
血管をつめてしまう
と、脳梗塞を起こすことがあります。
最近では、発症後早い時間であれば、薬でこの血の固まりを溶かし、血管を再開通させて神経が死んでしまうのをくいとめることができるようになってきました。

脳梗塞は脳の病気ですが、原因は動脈硬化などの全身的な血管の病気なので、ふだんから高血圧や糖尿病に注意し、禁煙して、食生活に気をつけていくのが最も有効な予防法といえるでしょう。

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