うらばなし5.
「芸能人」
私の勤務している現在の病院は熊本県です。
こんな地方でも、時々芸能人を突然診療することがあります。
地方のコンサ−ト、講演、イベント招待等当然地方でもたくさん仕事があるし、
逆に地方のほうが芸能人もいろいろ遊んだり不節制するのでしょうか、
病気にもなりやすいようです。
数年前、私も何を隠そうあの有名な芸能人を診療しました。
40歳台のいい男で、コンサ−ト、ドラマ、ラジオ、バラエティ−番組、
ゴルフ番組など多彩に出演しており、人気のある芸能人でした。
土曜日の午後、午前中の外来診療を終え、帰宅しようかと思っていましたところ、
あるテレビ局のお偉いさんから私に電話がありました。
「今から芸能人の○○さんを連れてきます。すみませんが先生帰らずに残っていて下さい。
ゴルフ中腹痛を訴えはじめましたので中止して今そちらに向かっている途中です。
診察よろしくお願いします。
昨日コンサ−トを終え今日は何もないので、ゴルフしてたんですが、
明日、鹿児島でコンサ−トなんですよ。
何とか今日中に治して下さい。お願いします。」
基本的に診療依頼は断らないことにしていますので、当然この時も、
「わかりました。お待ちします。」と返事して待つことにしました。
すでに、土曜日の午後で診療も終わり外来の看護婦さんがひとり残っていました。
私は看護婦さんに言いました。
「芸能人の○○さんが診察に来るからよろしくね。
腹痛だから点滴することになると思うよ。」
すると看護婦は、「えっ、私が○○さんに点滴できるんですか〜 うれし〜」
その看護婦は点滴する部屋を掃除したり
点滴スタンドを準備したりしてうれしそうでした。
「先生お待たせしました。診察お願いします。」
○○さんを連れてテレビ局関係者、マネ−ジャ−等数人がばたばたとやって来ました。
私はテレビのほうがいい男だなと思い(病気だからかな?)、お腹の診察をしました。
CTスキャンでは著明な胃拡張を認めました。
原因はウィルス感染かもしれませんが、胃腸の動きが止まっており、
とにかく胃がめちゃくちゃ拡張していました。
嘔吐をさせて、点滴をすることにしました。
私は先ほどの看護婦さんに言いました。
「それじゃ、点滴たのむよ」
「はい、わかりました 点滴をしてまいります」
ところが、その看護婦さんは5分もしないうちに暗い顔で戻ってきました。
「あれっ、どうしたの。何か忘れ物?」
「いいえ、K婦長さんがいらっしゃって、点滴は私がしますからあなたは部屋から出ていきなさいとおっしゃいましたので、私点滴できませんでした」
K婦長は2時間前に帰宅しているはずでした。
「えっ、何で、 K婦長がいるの?どうして?」
あとで、わかったことですが、このK婦長は○○さんの大ファンで、
毎年○○さんのコンサ−トに行っていたそうです。
じつは前日のコンサ−トもちゃんと見に行っていた様です。
しかし、どこから情報が入ったのか、帰ったはずの K婦長が
白衣に着替えて○○さんの点滴の準備をしているとは・・・さすがです
余談ですが、この婦長はたかが点滴するのに
この部屋に30分位居たといううわさです。(○○さんと二人で・・・)
もう一つ余談です。
この翌年にまた○○さんのコンサ−トが熊本でありました。
昨年お世話になった病院のスタッフにお礼がしたいと
○○さんが言ってこられたようです。
私はお礼なんていりませんと伝えてもらうように言いました。
あとで聞いた話ですが、この K婦長は昨年のお礼にということでコンサ−ト終了後楽屋に入らせてもらい、一緒に写真を撮ったということです。 ファンの根性は凄い!!
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