翌朝6時に目が覚めた。 シュラフの外は、かなり冷え込んでいたが この日は硫黄岳への往復4時間を
予定していたので 朝食を済ませ急いで仕度を開始する。 テントと大きいザックはそのままに、
持って行った小さいリュックに非常食、レインコート、帽子、手袋(とにかく防寒具)を詰める。

ジェスパのドッグバッグにも、ビッケの防寒具、ロープ、救急セット、水、人間のジュースを詰め込む。
「今日も頼んだぞ」と言い聞かせ、ジェスパに荷物を背負わせる。
去年は道無き道を行ったり、沢の跡を登ったりして、「妖怪惑わし」と言う仇名をつけられたジェスパだったが
今年は、どうした事か三叉路や、分かれ道でも迷わず正しい道を先頭を切って歩いた。
私は木に吊るされた赤い布の道しるべを確認したが、全て正解していた。
だから今回は、悪名を返上し「シェルパ」=(山の案内人兼荷物持ち)と仇名された。

      
           この辺はすでに森林限界。                      硫黄岳頂上まで、あと一息。

赤岳鉱泉から硫黄岳への道は、道幅も狭く勾配が少しづつきつくなった。  当然、紅葉など無い。
足取りもかなり重くスローペースになる。 そんな時は、こんな歌をついつい口ずさんでしまう。
「じ〜んせい、楽ありゃ〜苦〜もあ〜るさぁ〜・・・・。」と。  どんどん辛くなる。 (T_T)

ご隠居(ユウコ)は、助さん(ビッケ)角さん(ジェスパ)に脇をガードされながら進む。
そして後ろから八兵衛(ジュンコ)が「ご隠居、そろそろ休みましょうよ〜。 腹が減っちまって死にそうだぁ。」と
泣きながら付いて来る。  まさにそんな光景だった。

だいぶ歩いた辺りから、急に高い木が無くなる。 森林限界だ。 そして遮るものが無くなった為、風が強くなる。
きっと、もう頂上がすぐ近くなんだ。 やる気が沸く。
下山して来たハイカーとすれ違ったので、「あとどれくらいですかぁ?」と、よせば良いのに聞いてしまった。
「あと、そうだなぁ1時間位かなぁ」   ( ̄□ ̄;) かなりショックを受ける。

       
      ガレ場の頂上。 風が強く犬の耳がはためく。             硫黄岳頂稜から見る爆裂火口。 足が竦む。

すれ違う人達の話では、頂上は凄い風で背中を押される感じ。 口も開けないほど寒いとの事。
私達は、いよいよ頂上まで20分程の場所でレインコートを着た。 そしてビッケにもカッパを着せた。

硫黄岳は、八ヶ岳の山々の中でも比較的楽な方で、鎖場やハシゴが無い。
私達は、鎖に掴まれない犬の為に硫黄岳を選んだのだが それでも急な岩場を登らなくてはいけないので
少々心配になって来た。 ジェスパが足が滑らせたら・・。ビッケが風で飛ばされたら・・・。
ユウコがジェスパに押されて崖から落ちたら・・・。

確かに、頂上間近の岩場登りは巨大な岩だらけで足元が狭い。 手で岩をしっかり掴んで登らないと怖い。
ビッケを落さない様に抱えて登る。 ジェスパの荷物も岩の間に挟まっては大変と取ってやった。
ジェスパは岩をポンポンと飛び越え、あっという間に頂上に行ってしまった。

頂上は、想像していたよりかなり広く ビッケもユウコも風に飛ばされそうになかった。
横岳と赤岳が見渡せ、雲海の隙間からは紅葉の裾野が広がって見え 素晴らしい眺めだった。
去年は、根性無しにも赤岳鉱泉で満足して帰ったけど 頂上に登らなかったら何にも喜びが無い事を
この時やっと悟った。

        
            頂上で記念写真。                急な岩場を下山、慎重に進むユウコのお尻につっかえるジェスパ。

こんなに苦労して登ったのに、帰りは1時間でテント場まで戻った。 ちょうど11時だった。
前日とは打って変わって、この日は曇り。 しかも段々と天気が崩れて今にも雨が降り出しそうだった。
早くテントを撤収しなくっちゃ。 と、思った瞬間。

「あらららぁ。 早くしなくっちゃ、雨が降りますよ〜。」 「時間の問題ですよ〜。」との声。
そう。 例のおじさんだった。  おじさんは、すでに荷物をまとめて後は山を降りるだけだった。
私達のテントの中を覗き込み 「な〜んにも仕度出来てないじゃないですかぁ」 「マットは全身用ですね。」
「僕のは・・・・」と機関銃トーク攻撃を仕掛けて来る。

ヤカマシイ! ホットイテクレー!と心の中で叫ぶ。  雨が降ってきたら、おっさんのせいだぁと思った。
ところが、おじさんは「テントの底は乾かした方がいいですよ〜」とか、機関銃トークを続けながら 
何故だか また撤収までも勝手に手伝ってくれた。 
そして、一通り片付くと「じゃあ、ジェスパ、ビッケさよなら〜」と山を降りて行った。  不思議な人だった。  
おじさんのお陰で、予定よりかなり早く撤収が終わり下山出来た。   最終的にはやっぱり、ラッキーだった。
                                                                                                               ← 「3匹荒野?を行く」の図

赤岳鉱泉から七つ橋までは難なく下れたが、その後も長いダラダラとした下りは続き、6時間も頑張った私の膝が
ケラケラと笑ってきた頃、、赤岳山荘の駐車場に辿り着いた。
途中何度もビッケに抱っこする?と聞いたが、ビッケはゴツゴツした道も物ともせず、最後まで自力で歩いた。

来年もこの紅葉の時期にまた八ヶ岳を訪れたいなぁ。

                                                     おしまい。

 

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