原文について

●「風の又三郎」の作者自筆原稿は現在66枚保存されています。これらはきちんとした清書原稿ではなく、前身作品「風野又三郎」の自筆原稿を添削してそのまま本作品の原稿としたものや、作者の教え子に筆写させたものを添削したもの、別作品の原稿を添削してそのまま使ったもの、無関係な作品の原稿の裏に書いたもの、手紙下書き、メモなどの裏面に書いたものなどを含んだ集まりであり、しかも添削箇所の極めて多い一見混沌とした状態のものです。したがって正確な本文決定には綿密な検討作業が不可欠だったのですが、この作業は活字化作業の早期から必ずしも的確に行われていたとは言い難く、実際に過去に刊行されたものの内容は相当の箇所に亘って異同や混乱を示しています。
 そのような混乱を終息させたのは校本全集の刊行(筑摩書房、1973〜1977)でした。現存する原稿を丹念に調べ、現存しない部分(9月4日の次の日冒頭から「うあい又三郎汝などあ世界になくてもいなあぃ」すると又三郎はずるそうに笑ひました。の前までの数枚分)については過去に活字化されたものを参考にし、また常識的には矛盾と思える箇所、仮名遣いなどについてもできるだけ原文を尊重する方針を貫き、可能な限りでの最良の本文テキストが決定されました。
 このサイトでは原作本文(旧かな)は「新校本宮澤賢治全集」(1996年筑摩書房)本文をほぼそのまま採用しています。

 新校本テキストが自筆原稿と相異する主な点は次の通りです。
 ・タイトルの「風野」を「風の」と改めてある。
 ・9月4日の次の原稿行方不明部分の章題を「九月六日」としてある。
 ・9月7、8日の総ルビ付きの部分をほとんどルビなしに改めてある。

 当サイトの原作本文(旧かな)が新校本テキストと相異する点は次の通りです。
 ・9月2日、二ヶ所にわたって「幸一」とあるのを「孝一」と改めた。
 ・9月4日、「又三郎は笑ひもしなければ物を云ひません。」を自筆原稿コピー(天沢退二郎氏提供)により「・・物も・・」に改めた。
 ・9月7日、「魚へんに府」の字をやむなく「鮒」とした。

 作品の成り立ち先駆作品参照

●原文(旧かな)の総文字数は29,386字です。(算式の横線は1字とします。振り仮名、傍点、欠落部分を除きます。)
  9・2 「五年生の人は読本の■頁の▲課をひらいて/「孝一さんは読本の■頁をしらべてやはり 9・4 せなかに■■をしょった二匹の馬が、 9・12 お母さんは馬にやる■を煮るかまどに木を入れながらききました。(■は空白、▲は不明。)

●読点「、」の分布の偏りは極端です。(九月二日にはほとんどない。四日は嘉助のさまようところで過剰なほど多い。七日は冒頭こそ少ないが発破以降は極めて多い。八日は冒頭以外で極めて多い。十二日は地の文においては極めて少ない。)
 振り仮名についても同様です。(四日、七日、八日に多く、六日には一ヶ所のみ、他の日にはなし。)
 また、八日には文末の文体に一部混乱が見られます。("「鬼っこしないか。」と云った。" " みんなにうんとはやされたほかに鬼になった。" の二ヶ所が「ました」形になっていない。)
 これらのことは作品の成り立ちの事情に大きく関わっています。作品の成り立ち先駆作品を参照して下さい。

●作品中10回以上の頻度で出現する特徴的な語句を抜き出してみました。文体の傾向が見て取れるかもしれません。数字は出現回数です。
 区別するもの:品詞の違い、単独の語と複合語の成分、他動詞・自動詞・派生動詞。
 区別しないもの:活用の違い、漢字の違い、漢字とカナ。
 対象外のもの:形式名詞、形式動詞、付属語、作品プロパーの語の大部分。

青い17 赤い13 あと17 雨13 歩く13 あんまり17 息13 いきなり12 急いで11 一緒に11 うしろ23 馬55 運動場15 大きな、大きい21 をかしな、をかしい12 おとな10 思ふ22 おら18

顔23 風37 学校16 上流10 川13 河原13 木、〜の木46 教室22 霧15 草29 口12 雲10 くらゐ、ぐらゐ13 栗の木11 黒い12 けれども(接続詞)16 子21 声13 子供11

さいかち11 魚11 叫ぶ34 さっき12 じっと13 しばらく23 しまひました。34 知らない10 白い19 すぐ27 すっかり14 すると(接続詞)52 先生61 そこで12 そのとき11 空22 それから49

だけ10 だまる、だまって20 だんだん13 小さな、小さい21 机18 冷たい10 手27 てしまひました。34 たうとう15 ところが18 土手14 どどうど10 どんどん11

中39 何か13 鳴る16 俄か10 のでした。22 のです。51 野原12 登る12

葉10 走る19 早い、早く、早くも16 光る13 一人11 吹く(自動詞)13 二人11 淵13 変な、変に11

ましたので11 ますと17 まだ16 まるで37 見える14 水37 道17 みなさん13 みんな172 向ふ(名詞)22 眼16(うち眼の前7) もう(既に)41

やっと10 やっぱり13 やはり10 やう113

笑ふ31


●作者独特の癖や雰囲気を感じさせる表現を挙げてみましょう。

 生徒は三年生がないだけであとは一年から六年までみんなありました。
 テニスコートくらゐでしたが
 まるでびっくりして
 机にちゃんと座ってゐたのです。
 そしてその机といったらまったくこの泣かないこどもの
 まるで熟した苹果のやう殊に眼はまん円で
 やはりきょろきょろこっちを見るだけきちんと腰掛けてゐます。
 俄かにうしろの方で
 すっかりやすみの前の通りだと
 秋は一番からだこゝろもひきしまって勉強のできる時だといってあるのです。
 モリブデンといふ鉱石ができるので、
 それをだんだん掘るやうにする
 少し川下へ寄った方やうです。
 やっぱりその柱のじっとそっちを見て
 それは突然又三郎が・・・出て来たのです
 号令をだんだんかけてたうたうみんなは昇降口から教室へ入りました。
 中にも又三郎のすぐ横の四年生の机の佐太郎がいきなり
 やってしまったためかどっちともわかりませんでした。
 字を黒板へ書いてそれかなとわけをつけました。
 息をはあはあしました。
 馬はどての外へ出たらしいのでした。
 もう二疋はもう外へ出てゐたのでした。
 すてきに背の高い薊の中で
 第一、薊があんまり沢山ありましたし
 知らない草穂が
 三郎は知らないで・・・と云ひました。
 誰も居たやうではありませんでした。
 肩からせなかから水へ入ったやうになりました。
 いくら考へてももう出ませんでした。
 けれどもみんな底まで行かないに息がつまって
 一人はすぐ水に入って網をかまへました。
 そのころ
誰かが、「あ、生洲、打壊(ブッコワ)すとこだぞ。」と叫びました。
 そこでみんなはひそひそ時間になるまでひそひそその話ばかりしてゐました。
 佐太郎、大威張りで
 「鬼っこしないか。」と云った
 外はもうよほど明るく
 ちぎられた青い栗のいがは
 息もはあはあなって
 

●今日ではあまり一般的でない使われ方の語彙です。

 おら一等だぞ。
 前へ
おい
 もう一ぺん
習ってみませう。
 これを
勘定してごらんなさい。
 四年生の人はこれを
置いて
 雑記帖へ
拾って置くのです。
 かなと
わけをつけました。
 大きく
運算してゐたのです。
 一郎
だちの方へ
 こいつは
悪くなって来た。
 みんな悪いことはこれから
集(タカ)ってやって来るのだ。
 嘉助はあんまり
見っともなかったので
 
下(サガ)ったら葡萄蔓とりに行がなぃが。
 
上流(カミ)の方へ登って行きました。
 下の方の葉を
つんであるので
 愕いて口を
あいて
 
失敬したねえ。
 
箇條をたてゝいってごらん。
 数へ
ようはあんまりおかしいや。
 
奇体だと思ってゐましたら
 巡査に
押へられるのでした。
 とった
与(ヤ)るぞ。
 みんなにうんとはやされた
ほかに鬼になった。
 からだはやはりがくがく
ふるってゐました。
 雨が
にはいって
 もう
外(ホカ)へ行きました。

 

●せりふなどの方言については鑑賞の手引き(1)方言をごらん下さい。

 

●オノマトペ索引 (括弧内は回数)

 うとうと 7日
 がくがく 8日
 ガサガサガサガサ 4日
 がたがた 1日(3) 8日 12日
 がやがや 1日 8日
 がやがやがやがや 1日(2)
 がらんと 7日
 がりがりと 2日
 カンカン 4日
 かんかん 7日
 きぃん 7日
 キインキイン 4日
 きっと 4日(5) 7日 8日
 ぎょっと 1日
 きょろきょろ 1日(2)
 きらきら 2日 4日
 ギラギラ 4日
 きりきり 2日(2)
 きろきろ 2日(2)
 ぐうっと 4日
 ぐちゃぐちゃ 7日
 くつくつ 6日(3)
 ぐったり 7日
 くるくる 4日
 ぐるぐる 4日(2) 8日
 くるくるくるっと 4日
 ぐるっと 1日 2日(2) 4日(2)
 ぐんぐん 4日(3) 12日
 こちこち 8日 12日
 ごとごと 12日
 ごとんごとん 12日
 こぼこぼ 4日
 ごほごほ 8日
 ごぼごぼ 1日
 ごろごろ 4日
 ごろごろごろ 8日
 さあっと 2日 4日
 ざあっと 2日 4日 6日
 ざくざく 12日
 ざっこざっこ 8日(2)
 さっさと 1日
 さっと 4日
 ざっと 6日 12日
 ざぶざぶ 12日
 ざぶんと 8日
 さらさら 4日(2) 12日
 ざわざわ 2日
 ざわざわざわっと 4日
 しいんと 1日(2) 2日 4日 6日 12日
 しぃんと 1日 8日(2)
 シインと 4日
 じめじめ 4日 7日
 じゃぶじゃぶ 8日
 しゃんと 1日
 しゅう 4日
 じろじろ 1日 7日
 しんしんと 8日
 しんと 1日(4) 12日
 すたすた 1日 2日
 すぱすぱと 1日 7日
 するする 7日
 せかせか 4日(2)
 そろそろど 4日(2)
 ぞろっと 8日
 だあ 4日
 だあだ 4日
 だぁんだぁんと 7日
 だぶだぶ 7日
 だぶだぶの 1日(3)
 チョロチョロ 4日
 ちらっと 2日 4日
 つるつる 8日
 てかてか 1日 4日
 どう 4日(3)
 どうっと 12日
 どうと 1日(3)
 どうどう 4日
 どかどか 12日
 どきどき 4日
 どっこどっこ 8日(2)
 どっと 1日 6日(2) 7日(2)
 どっどど 12日(3)
 どっどどどどうど 1日(2)
 どどう 1日(2) 12日(3)
 どどうど 1日(2) 12日(6)
 どぶーん 7日
 どぶんと 7日(3)
 どぶんどぶんと 7日
 どぼんと 8日
 どやどや 1日
 どんどん 2日(2) 4日 6日(2)
 どんどんどんどん 4日 12日(2)
 にやっと 1日
 ぬるぬる 8日
 のっこり 4日
 のっそりと 4日
 はあ 12日
 はあはあ 4日(3) 12日
 ぱくぱく 7日
 ばしゃばしゃ 4日 8日
 ばたっと 12日
 ばたばた 1日 8日
 ぱたぱた 4日
 パチパチ 4日 6日
 パチパチパチッと 4日
 ぱっと 4日
 バラッと 4日
 ぴかぴか 1日
 びくっと 8日
 ぴしゃんと 4日
 ひそひそ 8日(3)
 びちゃびちゃ 7日
 ぴったり 2日
 ひひん 4日
 ひゅうひゅう 4日 8日
 ぴょんぴょん 7日
 ひらっと 4日
 ひらりと 2日
 ビルルと 1日
 ピルルルと 1日
 ふう 7日
 ぶちぶち 8日
 ふっと 4日 12日
 ぶるぶる 1日 4日 12日
 ぷるぷる 4日
 ぶるるっ 12日
 プルルッ 2日
 べろりと 4日
 ぼうっと 4日
 ぼぉ 7日
 ぽかんと 1日
 ポタリポタリと 4日
 ぼちゃぼちゃ 8日
 ぼちゃんぼちゃんと 8日
 ほっと 4日
 ホッホウ 4日
 ぼゃっと 4日
 ぼろぼろ 2日
 むくっと 7日
 むくむく 8日
 むっくり 2日
 むっと 8日
 もうもうと 6日
 もくもく 6日
 もじもじ 1日(2) 2日 4日
 もにゃもにゃっと 2日
 りんと 1日(2)
 わあと 1日
 わあわあ 7日 8日
 わくわく 7日

 

●"郎"と"又三郎"について

 "三郎"は39ヶ所、"又三郎"は121ヶ所、合計160ヶ所をすべて挙げてみました。科白内のものは 「 を付けてあります。

1日

「風の又三郎だぞ

「又三郎居なぐなったな

 ここまでは「又三郎」の発見者である嘉助の言葉。

「風の又三郎だったな

 これは誰の言葉とも決めがたい。

「又三郎おれの机の上さ

 これは二年生の子の言葉。既に"又三郎"は受け入れられている。以下、子供たちの言葉は"又三郎"である。

「高田三郎さんです

 当然先生は"三郎"と言う。

「又三郎だな

三郎の方を

 地の文は"三郎"と言う。以下同じ。

三郎の席まで

三郎は通信簿も

三郎はさっきの

三郎に合図すると

三郎はみんなの

「又三郎も掘るべが

「又三郎だなぃ

「高田三郎だぢゃ

 これは"又三郎"を受け入れていない子の表現。

「又三郎だ

「又三郎だ

2日

又三郎の行った方を

 地の文にもかかわらず"又三郎"が使われている。これは作者がこの日の章を最後に書き上げたことに関係するという。
 鑑賞の手引き(1)9月6日参照。

又三郎がその下手のみちから

又三郎はどてを

又三郎にさう云はれても

又三郎の方は

又三郎の方は

又三郎の方へ

又三郎はちょっと

又三郎は向ふの

又三郎は少し困ったやうに

「又三郎だぞ

又三郎はそんなことには

又三郎も昨日云はれた所へ

又三郎のすぐ横の

又三郎は国語の本を

又三郎にきゝました

又三郎はちょっと

又三郎の前ですから

又三郎は両手で

又三郎もだまって

又三郎もみんな

又三郎の方を

又三郎はどこから出したか

4日

三郎のうちの方へ

 地の文は"三郎"である。

「又三郎ほんとに

「又三郎偽こがなぃもな

「又三郎吹がせだらべも

三郎の高く叫ぶ声が

又三郎が小さな唇を

 ここで初めて(2日は別として)地の文で"又三郎"を使っている。ここは特殊なところだという。
 「風の又三郎」の謎隠されているもの9月4日参照。

三郎の前まで

三郎は大きな声で

又三郎が云ひました

 地の文2回目の"又三郎"。

三郎はその次に立って

三郎だけは

「又三郎馬怖ながるぢゃい

三郎は

「又三郎馬怖ながるぢゃい

三郎はすっかり

三郎は

三郎が云ひました。

三郎がもう一疋を

三郎と嘉助は

三郎の白いシャッポが

三郎が通った痕らしく

三郎が叫んでゐるやうです

「又三郎もおれも

又三郎がすぐ眼の前に

 ここは地の文ではあるが嘉助の夢?の中の表現である。以下4ヶ所も。

又三郎の肩には

又三郎の影は

又三郎は笑ひもしなければ

又三郎はひらっとそらへ

三郎がまるで

「又三郎びっくりしたベぁ

三郎に云ひました

三郎はだまって

三郎はやっぱり

6日

「又三郎も行がなぃが

「又三郎さ教へるやなぃぢゃ

三郎は知らないで

又三郎と六人で

 この日は地の文に"三郎"と"又三郎"が混在する。作者の意識が子供たちの側に寄って行った表れであるという。
 鑑賞の手引き(1)9月6日参照。

又三郎はいきなり

「又三郎、たばごの葉とるづど

「又三郎何してとった

三郎は顔を

三郎だの

三郎に云ひました

「又三郎なんぼ知らなぃたって

「又三郎もどの通りに

又三郎は困ったやうに

「又三郎の置いた葉

三郎は

又三郎はそれを

又三郎がのぼってゐて

「又三郎何する

三郎は上で

三郎は樹の上には

三郎の鼠いろの

「又三郎、まだひとさ

「又三郎、うなそごで

三郎の顔を見ながら

「又三郎汝などあ

又三郎はずるそうに

 ここからは地の文は最終日までほとんど"又三郎"で安定する。

「又三郎、うなみだぃな

又三郎は少し

「又三郎風などあ

又三郎は少し

又三郎は先生みたいな

又三郎は面白そうに

又三郎はいよいよ

又三郎はこんどこそは

又三郎はやっと

又三郎は又

又三郎と一しょに

又三郎もすっかり

又三郎にぶだうを

又三郎は白い栗を

7日

「又三郎水泳びに

又三郎もついて行きました

又三郎もきものを

「又三郎 何してわらった

又三郎はやはり

「又三郎何してわらった

又三郎はじっと

又三郎がいつの間にか

又三郎を見ました

又三郎はだまってこっちへ

三郎の置いて来た魚を

 例外的に"三郎"が残っている。

「又三郎、うなのとった煙草の葉

又三郎はきっと口をかんで

「又三郎のごと囲んでろ

又三郎をさいかちの

又三郎をつかまへる風でもなく

又三郎は

又三郎も気の毒なような

8日

又三郎は嘉助と

又三郎は水を見ないで

又三郎一人が

又三郎はまもなく

又三郎が

「又三郎、来

又三郎をばかにしました

又三郎は

又三郎の髪の毛が

又三郎は

又三郎は

又三郎はよろこんで

又三郎は

又三郎はすぐに

又三郎は

又三郎も何だか

「雨三郎

「又三郎

「雨三郎

「又三郎

又三郎はまるであわてて

又三郎は

12日

又三郎から聞いたばかりの

「又三郎は飛んでったがも

「又三郎って何だてや

 事情を知らないお母さんは当然オウム返し。

「又三郎って云ふやづよ

「又三郎今日来るのすか

「又三郎って高田さんですか

 先生はここまで"又三郎"を確認できていなかった。

「風の又三郎だったな

 

●仮名遣いについて

1日

 どっどど  くゎりんも  促音や拗音にはほぼ一貫して小字を使っている。

 さわやかな  正しくは さはやかな

 はいって来て  「はいる」説があった。現在では はひって来て が正しいとされる。 以後も同じ表記があるが挙げない。以下同様。

 ふるえました  正しくは ふるへました

 たうたう  正しくは たうとう (他の箇所で正しく書かれている。)

 おかしな  正しくは をかしな

 ちやうはあかぐり  「ちやう」は「長」の字音なので、人名由来の囃しことば説を裏付ける。鑑賞の手引き(1)の注参照。

 すはってゐる  正しくは すわってゐる 

 こわがる  正しくは こはがる

 はいのぼって  正しくは はひのぼって

 叱らへるぞ  方言の表記。正しくは 叱らえるぞ とすべきか。他にも同種の箇所がある。

 向ふの山へ  正しくは 向う であるとの説もあるが 向ふ が広く行われる。

 ぢっと見てゐたのです。  正しくは じっと (他の箇所で正しく書かれている。)

 おぢぎ  正しくは おじぎ (他の箇所で正しく書かれている。)

 リョウサク  仮名遣いからいうと「良作」ではない。「竜作」か。あるいは仮に音のみを記したものか。

2日

 たうに  正しくは とうに

 ぢゃみ上り  「ぢゃ」は漢字音ではない。語源不明。

 かゝえて  正しくは かゝへて (他の箇所で正しく書かれている。)

 にわかで  正しくは にはかで (他の箇所で正しく書かれている。)

 もじもじ  正しくは もぢもぢ (他の箇所で正しく書かれている。)

4日

 拵えて  正しくは 拵へて

 おうい  「おゝい」と書き分けている。

 ずゐぶん  当時は「ゐ」が正しいとされていたが現在は「い」が正しいとされる。

 帯のようだな  正しくは やうだな  すぐあとの2箇所も同様。(他の箇所では正しく書かれている。)

 わらじ  正しくは わらぢ

 一等にしやう  正しくは しよう

 しうと云ひながら  擬声表記。「しゅう」とすべきか。

 こらえて   正しくは こらへて

 押へやうと  正しくは 押へようと

 くつは  正しくは くつわ (他の箇所では正しく書かれている。)

6日

 たうとう  ここでは正しく書かれている。

 ずるそうに  気の毒そうに  面白そうに  正しくは 〜さうに (他の箇所では正しく書かれている。)

 ラムプ  撥音の[m]を「ム」と書くのはよく行われた。

 こわす  正しくは こはす

 思っちゃいないんだよ  正しくは 思っちゃゐないんだよ

 数へようは  正しくは 数へやうは

7日

 見きわめてから  正しくは 見きはめてから

 くわいて  方言表記。正しくは くはいて

 ようす  正しくは やうす

 ぢゃぶぢゃぶ  擬音表記。「じゃぶじゃぶ」がふつう。

12日

 ほんとうに  正しくは ほんたうに (他の箇所では正しく書かれている。)

 けわしい  正しくは けはしい

 うちわ  正しくは うちは

 

歴史的仮名遣いの詳細に関しては「 風の又三郎(歴史的仮名遣い教室)」をご参照下さい。
参考:
歴史的仮名遣い入力法について

 

訳本より

 独特な表現を英語ではどう表わすのでしょう。講談社英語文庫「風の又三郎」(「MATASABURO THE WIND IMP」 John Bester訳)からほんの少しだけ拾ってみましょう。

原文 英訳
風の又三郎 Matasaburo the Wind Imp
どっどどどどうど どどうど どどう、
青いくるみも吹きとばせ
すっぱいかりんもふきとばせ
どっどどどどうど どどうど どどう
Wind, blow hard, blow hard!
Set the green walnuts flying
And the sour quinces flying:
Wind, blow hard, blow hard!
「あ、西さん、あ、東さん。あ、西さん。あ、南さん。あ、西さん。」 Ah, West Wind, East Wind, South Wind, West Wind...
「あんまり川を濁すなよ、
 いつでも先生云うでなぃか。」
Try to keep the water cleanthat's what Teacher always says!
「雨はざっこざっこ雨三郎、
 風はどっこどっこ又三郎。」 
Let it pour, Amesaburo!
Let it blow, Matasaburo!


 オノマトペはなかなか訳しにくいもののようです。

 


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