SLEEPLESS IMAGINATION
月桂樹
「えーと、まだ皆さん来られないので、吉井さんのソロインタビューから始めるという形でよろしいですか?」 「ええ、いいですよ」 「今回は2週間後に控えた『メカラウロコ7』についてお話を伺います」 「はい」 「『メカラウロコ7』はイエローモンキーの誕生日記念のライブとして行われるんですよね?」 「そうですね」 「で、誕生日というのが今のメンバーで初めて演奏したライブがあった日の事で、それが1989年の12月28日ですね?」 「そうです。その日のラ・ママでのライブが、イエローモンキーが今のメンバーでやった初めてのライブですね」 「では、初めて4人で演奏した時のことについて教えていただきたいんですが」 「あの・・実は、今まで言ってなかったんですけど、それより前に4人でステージに立った事があるんですよ」 「え?そうなんですか?」 「ええ。その3年前に一度だけ4人で演奏した事があったんです」 「でもその頃は皆さん、別のバンドだったんですよね?」 「ええ。エマとアニーがキラーメイで、ヒーセがムルブスで、俺がアーグポリスでした。」 「ですよね。じゃ、どういう経緯で4人で演奏する事になったんですか?」 「それが、初ライブの3年前・・ですから1986年ですね。その年末に、ラ・ママで『スペシャルライブ』があったんですよ。それで、その時キラーメイとムルブスとアーグポリスの3組が出たんですけど、そのライブの最後にそれぞれのバンドからメンバーを出してセッションをしたんです。その時偶然にも、ヒーセとエマとアニーと俺の4人が出たんですよ」 「でも吉井さんは前のバンドの時は、ベースをやってらしたんですよね?ヒーセと二人でベースを?」 「いや、実はアーグポリスのボーカルやってた奴に『俺はその曲は俺は知らないからお前が歌え』って、無理矢理押し付けられて。それで、その時はボーカルをやりました」 ***** 「俺がですか?」 「そうだ。お前がボーカルをやってくれ。お前、この曲知ってるんだろ?」 「知ってますけど・・・でも、俺、人前で歌なんてうたったことなんて無いし・・」 「他の奴には頼めないんだから。な?頼む、ロビン」 「歌えないんだったら、キラーメイかムルブスのほうにボーカルを頼めばいいじゃないですか」 「そんなかっこ悪いこと出来るかよ」 「俺に頼むほうが、もっとかっこ悪いじゃないですか」 「お前に頼むんだったら、何とでも言い訳がつくだろう。お前が『どうしても歌いたい』って言ったとか何とか」 「俺、そんな事言ってないじゃないですか!」 「キラーメイはギターとドラム出すって言ってるし、ムルブスはベースを出すって言ってるんだから、こっちがボーカル出すしかないだろ?」 「じゃ、俺がベースで出ますから、ムルブスの方からボーカル出してもらうように頼んでくださいよ」 「お前、あいつらにそんなお願いできるのか?そんな恥ずかしい事を」 「でも曲知らないじゃ、しょうがないじゃないですか」 「お前があいつらに頼むんだったら俺は止めないがな。俺は、奴らにボーカルを出してくれるように言うくらいなら、お前にボーカルを頼む」 「そうだ。まだ日にちもあるんだし、これから歌を覚えればいいじゃないですか」 「ロビン、人前で歌うと気持ちいいぞ〜。それに、キラーメイのギターとドラムで歌えるんだぞ。しかもベースはヒーセだ。そんなチャンスは、なかなか無いぞ〜」 「だから、これから曲を覚えて・・」 「これを機に新しい道が開けるかもしれないぞ?」 「・・・・・・」 「おい、俺がこんなに頼んでるのに、引き受けないつもりか?男なら、ぐだぐだといつまでも言ってないで歌うって決めたらどうだ!」 「・・・・分かりましたよ。俺が歌えばいいんでしょ!」 「さすが、ロビン。俺が見込んだだけの事はある。頼んだぞ」 「どうなっても、俺、責任取らないですからね」 「何、心配するな。お前なら大丈夫だ」 ***** 「と、まぁ、そんな感じで強制的に」 「じゃ、吉井さんはイエローモンキーでボーカルを初めてやったんではないんですね。それで初めてやったボーカルはどうだったんですか?緊張とかしなかったんですか?」 「そりゃー、緊張しましたよ。それまで人前で歌った事なんか無かったですからね。今までのライブの中であの時ほど緊張した事は無かったんじゃないかな?もうステージに上がるまで胃が痛いわ、吐きそうになるわで、もう大変でしたよ」 ***** 「いよいよだな、ロビン。大丈夫か?」 「大丈夫も何も。さっきから胃が痛くて倒れそうなんですけど」 「その割には、さっきは平気そうにベース弾いてたじゃねーか」 「そりゃ自分のバンドの曲なんだから弾けるって・・・あ、なんか・・・吐く」 「おい、大丈夫かよ。あんまり緊張するなって」 「ヒーセ、俺が駄目になったらフォローよろしく」 「今日はロビンが歌うんだって?よろしく」 「あ、エマさん。よろしくお願いします」 「なんだよ、お前、お辞儀までしてよー。俺の時と態度が全然違うじゃねーか」 「そりゃ、キラーメイのエマさんですから」 「そうだよな。俺とは違って、キラーメイはメジャーデビューしてるんだもんな。そりゃ態度も違うよな」 「何言ってるんですか。俺、同じベースマンとして、ヒーセの事すっごく尊敬してるんですから」 「おお、調子のいい事言っちゃって」 「もう、違うって・・・」 「ロビン、大丈夫そうだね」 「はい!緊張してますけど頑張ります!」 「ん?さっきといってる事全然違うじゃねーか。さっきは『胃が痛くて倒れる』とか『吐く』とか言ってなかったか?」 「俺、そんな事言ってないじゃないですか!」 「思いっきり言ってたじゃねーか」 「ロビン、そんな緊張しなくても大丈夫だって。俺たちが後ろにいるんだから」 「よろしくお願いします」 「がんばろうね」 ***** 「で、どうだったんですか?」 「それが、初めてとは思えない位、演奏は完璧だったんですよ。でも俺の歌がボロボロで・・。声が出てないうえに震えてるわで。もう、俺にとっては最悪の初体験でしたよ」 「そうだったんですか?なんだか、今の吉井さんからは信じられませんけど」 「いや、今でも歌う時は緊張してるんですよ」 「それで、吉井さん。その時やった曲っていうのは何ですか?」 「えっ?え、いや、・・・・・忘れました。もう何年も前の事ですから」 「忘れたんですか?」 「思い出したくもないから記憶から抹消してるっていうか・・・」 「そんなに嫌なステージだったんですか?」 「ステージを降りた時は、『もう絶対、人前で歌うか!二度とボーカルなんてやらない!』って固く誓いましたよ。でもあの時、楽屋に戻ってからエマが『ロビンなら、練習すればきっと上手くなるよ』って言ってくれて。俺、その言葉が心の中にあって。だからイエローモンキーでボーカルやろうと思ったんですよ」 「じゃ、今のイエローモンキーがあるのはエマさんのおかげなんですね」 「そうですよ。あの時のエマの言葉が無かったら、俺、二度と歌ってませんでしたからね」 ***** 「ロビン、お疲れ様」 「あ、エマさん、すいませんでした。俺、全然歌がダメで。演奏中何度も励ましてもらったのに・・・」 「確かにお客さんには悪い事したと思うけど、でもロビンの歌聴いて喜んでる人、多かったよ。俺もロビンの歌聴けて嬉しかった。好きだよ、ロビンの歌声」 「本当に?」 「うん。なんか、人を惹きつけるの持ってるよ。一度聞いたら離さないっていうのかな?ね、ロビン、歌ったら?」 「そんな・・俺には無理ですよ。さっきの歌聞いてたじゃないですか」 「そんな事ないって。練習すれば、きっと上手くなるって」 「じゃ、もし俺がまた歌う事があったら、エマさん、その時もまたギター弾いてもらえますか?」 「そうだねー、もしロビンが本気でボーカルやるんだったら、俺、ロビンの隣でギター弾いてもいいかなぁ」 「ほ、ほんとに?」 「兄貴、レノイが呼んでる」 「わかった。ロビン、今日は楽しかった。ありがとう」 「あ、いや、こちらこそ・・・」 「じゃ、またね」 「ロビン、お疲れ様でした」 「いや、アニーこそ、お疲れ様」 「今日は、ほんと疲れたんじゃない?」 「そんな事より、今日は全然歌えてなくて悪かった・・」 「ほんと、声出てなかったよね。でも、初めてだったんだから」 「初めてだったけど。でも、歌うって決めた以上は、ちゃんと歌いたかったよ」 「ねぇ、それよりもさ、もう歌わないの?俺、後ろから見てて思ったんだけど、ロビンって、なんか、ボーカルとしての雰囲気とか十分あったし。勿体無いよ。今回はメチャメチャだったけどさ、練習すればきっと・・??・・どうしたの?」 「いや、エマさんもさっき同じこと言ったから・・」 「え?兄貴も言ってたの?なら、尚更歌ったほうがいいよ。兄貴が誉めるなんて事、滅多に無いんだから」 「じゃ、自分のバンド作ったらボーカルやってみようかな?」 「やってみたら?結構いいと思うよ」 「じゃ、その時はアニーも俺のバンドに来てくれる?」 「え?・・んー・・・そうだねー・・」 「そうだよね。キラーメイがあるもんね」 「んー、確かに今は無理だけど、でもさ、縁があればいつか一緒に出来るよ」 「アニー、ロビン、打ち上げに行くんだとよ」 「わかった」 「・・・・・・・あのさ、俺、行けない」 「どうしたんだよ、ロビン。行くぞ」 「そうだよ。行こーよ」 「あの、ちょっと俺、行く所があるから」 「今からか?そっか。じゃ、またな!」 「ちょ、ちょっと、ヒーセ!ヒーセにも付き合ってもらいたいんだけど」 「え?俺もか?」 「そうだよ。どーしても一緒にきて欲しいんだよ」 「でもよ・・・何処行くんだよ」 「頼むよ、ヒーセ」 「・・・・・分かったよ。じゃ、挨拶してくっから、ちょっと待ってろ」 「悪いね」 ***** 「で、二人で何処に行ったんですか?」 「武道館です」 「武道館にですか?」 ***** 「行きたい所があるって言うからどこかと思えば、武道館じゃねーか?」 「そうだよ。ミュージシャン憧れの舞台」 「こんなとこ連れて来て。どうしたんだよ」 「俺の夢なんだ。武道館でライブをやるっていうのが」 「夢か・・・でも、お前だけじゃねーよ。俺だっていつかはやってみたいよ」 「ヒーセもそう思ってる?」 「思ってるよ。思ってるけどよ、でも武道館なんだぞ?そんな簡単にはやらせてはくれないだろ」 「でも、俺、いつか自分のバンドでこの武道館のステージに立つ!」 「バンド作るのか?」 「ヒーセ、一緒にやらない?俺、ヒーセと一緒だったらやれそうな気がするんだよ」 「俺もお前ベースじゃねーか。ベースが二人いてどうするんだよ」 「ヒーセが一緒にやってくれるんだったら、俺、ベースやめるよ」 「でも、他のメンバーはどうするんだよ」 「もう決めてある。キラーメイのアニーとエマ」 「おい、そんなの無理だろ。あいつらメジャーデビューしてるんだぜ」 「分かってるよ。でも今日、ライブやってて4人で出した音が一つになってるって感じたんだよ。すっごく気持ちよかったんだよ。ヒーセだってそう感じたんじゃないの?」 「確かに、やってて気持ちよかったけどよ・・・」 「俺、『いつかここでライブが出来ればいいな』って今までは漠然と思ってただけだったんだけど、でも、今日ヒーセとエマとアニーと一緒にやって、この4人でなら武道館でライブをやれるって確信したんだよ。4人でバンド組んだら、絶対ここでライブが出来るよ」 「俺がやるって言ったって後の二人はどうするんだよ。あいつらのバンドは?」 「確かに、今はまだ無理だけど、でもいつか必ずメンバーにしてみせるよ。ヒーセ、だから、先ずは二人で」 「わりーな、俺だって今のバンド辞めるわけにはいかねーんだよ。それに、お前だってアーグポリスがあるだろーが」 「そんなの・・・・いつまで持つか分かんないよ」 「そんななのか?」 「だったら、今すぐバンドを抜けてくれとは言わないから。だから約束してよ。ムルブスが解散したら一緒にやってくれるって」 「おい、縁起わりー事言うなよ」 「俺、ヒーセと一緒にやりたいんだよ。ヒーセとだったらどんな壁でも乗り越えられるって思うんだよ。必ずこの武道館のステージに立てるって。な?ヒーセ!」 「・・・・んー・・まぁ・・なぁ・・・・俺もお前の事嫌いじゃねーから、一緒にやれるんだったら、そりゃ嬉しいけどよ・・・」 「じゃ、約束だよ。いつか必ず同じバンドのメンバーとして武道館のステージに立つって」 ***** 「・・・と、まあ、これが俺たちの『ファーストコンタクト』っていうわけです」 「イエローモンキー結成の前にそんなエピソードがあったなんて知らなかったです!イエローモンキーは全て、その日に始まってたんですね!」 「おい、吉井!俺がいつ、おめーに武道館の前で口説かれたってんだよ!」 「げっ!ヒーセ!!」 「俺も、お前に『いつかはロビンの隣でギター弾きたいな』なんて言った覚えなんかないんだけど」 「え?吉井さん??」 「だいたいさ、ラ・ママでそんなライブやってないじゃん」 「え?ちょっ・・?」 「お前らいつから聞いてたんだよ!」 「ん?お前がボーカルを引き受けたって所からだ」 「そんな最初から聞いてたんなら、何で入って来ないんだよ!」 「だって、吉井の話面白かったんだもん。ねっ」 「そうそう。どうなるのか最後まで聞きたくなっちゃってさ」 「何だよ。そこに居たんなら入って来いよ!誰も来ないから、俺が先に一人でインタビュー受ける事になったんじゃないか!」 「だからって、話作ってんじゃねーよ」 「ちょっと待ってください。あの、吉井さん?今までの話は?」 「いや、その・・・皆来ないから面白い話でもしてあげようかなぁって思って・・・」 「じゃ、イエローモンキー結成前に4人で演奏したっていうのも、エマさんの一言が今のイエローモンキーを作ったっていうのも、一緒のバンドでステージに立とうって武道館の前でヒーセさんと約束したっていうのも・・・全部・・・嘘?」 「まぁ、そういうこったな」 「・・・・すいません」 「吉井さん!いい加減にして下さい!!」 |
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