FT201Sの入手とその特徴・・・そしてレストア

2004年3月31日、八重洲無線のFT-201S(No.302299)を入手した。FT-201/201SはFT-101シリーズの影に隠れてその存在を知らない人も多い。
このシリーズはFT-200/200Sから始まるシリーズで、八重洲無線得意の「プリミクス方式局部発振器によるシングルスーパーヘテロダイン」を採用していた。FT-200/200S時代は真空管構成であったが、このFT-201/201SはFT-101同様に終段とドライバ以外は固体化(半導体化)されていた。FT-200/200Sは昭和43/45年発売で、9MHzのハイフレIFをいきなり各バンドに変換するシングルスーパー方式に驚きと魅力を感じたものだった。FT-201/201Sを語る上で、FT-200/200Sは切っても切れない存在であると個人的には考えており、若干の解説を記す。・・・FT-200/200Sの一部バンドはヘテロダイン方向を逆にして、バンドXtalの節約によるコストダウンを図るなど設計者の苦労の跡が伺える。3.5MHzと14MHzを例にとれば、9MHzで発生されたSSBは目的バンドに変換するための局発に5〜5.5MHzのVFOを直に使用し、和ヘテロダインで「9+(5→5.5)=14→14.5MHz」、また差ヘテロダインで「9-(5.5→5)=3.5→4MHz」と、バンドXtalを使わないで目的周波数への変換を実現している。また他のバンドへは、3.5MHzバンドと同様に逆ヘテロダインになるバンドXtal局発が注入される。しかし7MHzはIFの9MHzより低いためバンドXtalを注入するものの逆ヘテロダインになっていない。したがって14MHzと7MHzバンドがダイアル方向が逆になるという特徴と煩わしさを持っていた(表参照)。なお国内では非常に目ずらしい、設計者の趣味とも思える6EJ7(TV-IF用/シャープカットオフ5極管/15mモーを誇る高gm)をミキサに使い変換利得を稼いでいた。


一方FT-201/201Sは昭和49年発売で、IFはFT-200/200Sと同様に9MHzである。VFOやバンドXtalの発振周波数成分の素通りを抑圧するために、モトローラのDBM-ICであるMC1496Gを使うなどの工夫がなされていた。FT-200/200Sは単純混合回路だけなので、局発出力のスプリアス特性はFT-201/201Sが勝っていたものと推測する。また100KH台のダイル表示は円盤ではなく円筒型が使われ、メインダイアル機構からギアで駆動される独特の構造だった。この辺りの造りをみると、八重洲無線の中でもFT-101とは開発部隊門が異なり、お互いに競争し合っていたのではないのかと想像する。なおFT-200/200Sの特徴で煩わしさでもあった特定バンドの逆ダイアルは、バンドXtalを奮発し全て逆ヘテロダインに統一されこのシリーズから無くなった。こうした事象は、豊かになっていく「時代」を反映しているように思えてならない。



FT-201/201Sの存在は、25歳のとき転勤先した名古屋で先輩のT氏が所持しているのを見て初めて知った。JA2のコールを持つT氏は、自慢げにその特徴を説明をされたが既に没されている。その時の思いもあり今回千葉市の御仁より譲り受ける事になった。ケース上面に「49.12.5」とフェルトペンで書かれた跡があるが、これは購入年月日だと思われる。全体にチューニングズレやVRとSW類のガリがあるが、時間をかけてレストアしていく予定である。製造から30年を経ているが、シャシには汚れはあるが錆はなく程度は悪くないと見ている。電源を入れるとあのややかん高い八重洲トーンでスピーカーが鳴り出した・・・嗚呼、何と懐かしい響きだろう。
八重洲無線(株)はその後平成12年(2000年)になって、社名をバーテックススタンダードに変更したが「YAESU」のブランド名は残されている。

写真は2009年6月、友人S氏から譲り受けたFT-200SとFP-200。手前は同時期に入手した専用電源PM-2(コリンズKWM-2に実装)。FT-200S/FP-200の保存状態は極めて良好でピカピカ。たださすがに経年変化があり、電源を入れ7MHzを聞くと受信感度に相当な低下を確認。 1970年頃の国内メーカーの実力は、ようやく米国に追いついた感じだった。各社がしのぎを削り一生懸命だった時代だ。




以下主な整備項目(随時追加します)

27:中和VC調整用穴を終段ボックス天板に開ける
アルミパンチ板で自作した終段ボックスの天板に、中和VCを回すための穴を開けた。既に3mm程度のパンチ処理がされているため中和VCの真芯上にある穴をリーマで拡大した。


26:終段の中和をとる
6JS6Cの2本化によりCpgが倍化するため中和がズレIcのディップ点とPoの最大点がずれる。CpkはPLATE同調で補正が利くしCgkは元々補正してあるが、Cpg対策は中和による方法しかない。気の利いた機械だとSgで終段を殺す回路が組み込まれているのだがこの機械にはそれが無い。それからこのFT-210Sに限らず、当時のアマチュアの機械は随所から漏れがあるので厄介であった。

25:Tuneモードで送信テストをする
ダミーロードを接続し、IC-756で確認しながら7.1MHzでキャリアを入れるがIcメータが振れない・・・可笑しい!。FT-201Sはむき出しの状態だからIC-756で十分な強さで受信できてはいる。DRIVEやPLATEチューンを回すとピークがある。長年の感でドライバー12BY7A以前までは信号が来ていると見た。テスターで12BY7Aのプレート回路をあたると何と30V程度しかない・・・何てこったぁ。あわて電源側を確認するとそこでも同じ電圧を示した。このとき「アッ」と思った。以前プレート電圧を上げた時に低圧側の確認をしなかった。この回路は低圧と高圧のコールド側の平滑回路を兼用している。このため、電源トランスのCTを平滑回路に接続する必要があったがそれを失念していた(過去の記述は修正済み)。配線を追加することで全バンドでTuneモードにて終段をドライブ出来ることを確認した。
以下はFT-201とFT-201Sの6JS6C及び12BY7Aの電源回路の比較。

24:VFOダイアルを回していると20KHzの所でダイアルがやや重くなる。調べるとKHzダイアル目盛円盤の一部がトリムに擦れているように見える。それで底からVFOのシールドボックスを手で押し上げクリアランスを作り問題を解決した。

23:100W改造を実施する。FT-101用の100W改造キットを使用したが、FT-201はファイナルソケットの取り付け方向が異なりキット付属の説明書は読み替える必要がある。またこのFT-201S(No.302299)はマニュアル回路図とは異なり、6JS6CのSg電圧は160Vラインを5.1KΩ+8.2KΩで分圧(10μ/160Vで平滑)していた。それらは、L型ラグに取り付けられヒーターダミーのホーロー抵抗(3Ω/30W)抵抗のネジにシャシ内で共締めされていた。また分圧後Sgへは250μHのRFC(L4)で供給されていたが、キットに付属していた100Ω/0.5Wのソリッド抵抗に変更した。RFCは残しても良かったがハンダ付けするポストが無いため断念した。
また100W化でPOメーターの振れが増大するため補正として、出力をC分割して取り出す比率をC65(150PF)に並列に300PFを追加し下げた。
この状態で電源を入れSSBでモードでBIAS電流を確認するが、送信に移ると勢い良くICが振り切れ6JS6Cにダメージを与える場合があるので、予めBIASを深くしてから送信操作をする必要がある。最終的には規定値である70mAにセットする。ちなみにBIAS-VR(VR-1)は右に回すとBIASが深くなりICが減るので回す方向には注意する。
写真は配線の様子。左は6JS6Cのソケット周りで、左が追加分。オリジナルの配線は御世辞にも綺麗とは言えないため殆どやり直した。ひょっとしたら前オーナーが手を入れたのかも知れない・・・特に撤去したSg電圧の分圧Lラグはハンダごてを当てると部品がボロボロ落ちる様な状態だった。右はファイナルボックスの6JS6C。左側が追加した6JS6Cとプレートキャップ&パラ止め。
なお6JS6Cは追加した物も含めてNEC製である。6JS6Cにはプレートに放熱板を追加した強化型があった。

写真左は100W化により取り外された部品。下段左からLラグとSg電源用平滑&バイパスこンデンサ、交換した管ヒューズ(3Aから5Aに交換)、Sg回路RFC、Cgk補完コンデンサ、Sg電源分圧抵抗2個、上段左から配線材料、ヒーターダミー抵抗。
写真右は改造前のソケット周りで、ヒーターダミー抵抗を引きずり出したところ。この抵抗を固定してあったビスで6JS6Cのソケットを固定する。

22:4月25日、ネットオークションでFT-101シリーズ用の「100W改造パーツキット」をゲットした。

21:前後するが当局のメンテナンスツールを写真にした。汚れ落としは「マイペット」と「メラミンフォーム(通称:激落ち・ゴシキュウ)」、SWやVRの接点復活には「ポリコールジェット」、金属部の潤滑に「CRC5-56」を使う。塗装面や樹脂面にはマイペットを吹き付け汚れが流れ出したら柔らかい布で拭く。シャシや背面パネル等、金属面のしつこい汚れはメラミンフォームにマイペットを浸して擦る。場合によってはCRC5-56やポリコールジェットでもOK。見違えるようにきれいになる。これ以外に無水アルコールやスプレー式のグリスも使う。


S平衡変調器のキャリアバランスをとる・・・別の受信機でモニターするとSSBでキャリア漏れを感じるためVR1とTC4を交互に調整し最小点にセットした。ただ気になるのは、平衡変調基板は裸で取り付けられており、元々何処までヌル点を追い込めたか不明である。VRとTCによるダイオードのリング変調器のバランス調整は、レベルと位相調整を行うものだが、大変懐かしい調整で100%自作の学生時代は毎日やっていたような記憶がある。簡単な回路だが、安定度を維持するためにはVFO並みの温度管理(又は温度保障)が必要である事は、自作を通じて経験した答えである。それから見ると当時のメーカー製はかなりルーズな造りである。

R更に感度低下・・・CW/AMフィルターを追加してから良く見るとSメーターの振れが100KHzCALでS9+20dB程度あったのがS3程度に落ちている。可笑しい!。再びケースを外しIF基板を取り外し基板上の部品をつついて確認していくうちにD2/1S1555の片側プリントが浮き上がりクラックがあるのを発見。D2はスイッチング用だがDCが流れずOFF状態だった模様。したがってD2の通過容量とクラックの容量で高周波が伝達されていた事になる。ハンダ上げして回復する。Aの障害はDで解決したと思っていたが、ここにも伏兵がいた。


Q高圧電源の平滑ケミコンC6・C7/100μFの容量を確認する。両者とも90μF以上あり、思いのほか容量が残っているため交換の必要無しと判断した。

Pオプションクリスタルフィルター・・・XF-90C(CW)とXF-90B(AM)、既に正規ルートでは扱っていないため、富山のTMTに依頼した。
翌日フィルターが届き早速取り付けたが、FT-201Sの保守性は必ずしも良くなく、IF基板の取り外し方が理解できず、基板を取り付けた状態でフィルターを組み込んだ。このフィルターはFT-301用として売られていた物であるが、FT-201/201Sと全く同じ物である。写真はTMTサービスから届いたフィルターと実装した基板裏面。今時の機械と異なりフィルターを取り付けてから結合コンデンサ(1000PF)の配線替えを行う必要がある。

OVFO周波数の直線性・・・現在1バンド(500KHz)動かすとダイアルメモリで約1KHzずれる。

Nプレート電源高圧化・・・6JS6Cのプレート電圧の他に12BY7Aのプレート&スクリーングリッド電圧に影響するので注意。
(a)トランスのタップ上げ(240Vx2=480Vのブリッジ整流)
(b)平滑ケミコンC7のショートリードをカット
・・・これで6JS6Cのプレート電圧は倍化するが、12BY7Aには安定供給できないため更に・・・
(c)トランスのCT(センタータップ)と平滑ケミコンC6(高圧のコールド側)とC7(高圧のホット側)の接続点をリード線で結ぶ
・・・これを忘れると、C6には12BY7Aのスクリーン分圧回路約23.1KΩが負荷されるためC6とC7による高圧の配分が崩れ、C7に最大定格を超えた電圧が加わる。また12BY7Aへ供給される電圧は数十Vに低下し動作不良になる。
この方式は高圧と低圧の平滑回路を共用しそのまま出力する独特の方法である。オール真空管の時代はこのままだとリップル含有が多くてハム音の混入は否めなかったと思われるが、負荷が12BY7A1本であるためこうした芸当が可能であった。負荷が大きい場合はCTよりチョーク入力にして平滑ケミコンを入れる方式がベターである。

Mフロントパネルとノブを外し洗浄・・・フロントパネルはマイペットで洗浄、ノブはマイペットに浸し汚れを落とした後お湯で洗浄し乾燥させた。

LCLARLFIERの周波数変動・・・C107/10μ16V膨張容量抜け、手持ちの関係で22μ25Vに交換。

KCLARIFIERのセンターズレ・・・オフセット用VR6/50KB接触不良のため、接点復活剤塗布し再調整。

JPLATE-VCが重い・・・シャフト軸受けに注油する。

ILOAD-VC駆動ギアとスプリング・・・ギアの勘合位置調整を行い、とアンチバックラッシュ用のスプリングが十分に張るようにした。

H錆部分にCRC5-56・・・明らかに錆をふいている個所(背面KeyJack、GND端子他)にCRC5-56を吹き付けた。

Gファイナルボックス蓋・・・この蓋と締め付けビスが何故か欠品。購入先に訪ねたが昔の事なので良く分からない。止む無くアルミのパンチ板を加工して取り付けた。中和VC調整用の穴は未だ空けてない。上面にDANGERシールを貼り付けた。

Fファン取り付け方向・・・AC給電部が下向きだったので横向きに変更する(メーカーマニュアル通り)。

E100/25KHzマーカー・・・100KHzは正常だが、25KHzはNGで100KHzの素通りのみ確認できる。分周動作がNGの模様。Q3/MFC6020で分周動作を行っているが、回路図ではこのICに電源が供給されていない・・・果たしてこれは一体何故?。以下にMFC6020の内部ブロックを示す。



DATTスイッチが接触不良・・・Aの感度低下の原因はこれと思われる。ON/OFFを繰り返し何とか接触するようにはなったが、後日抜本対策する予定。その後接点復活剤を注入して回復する。

CPRESELECTの同調点・・・ノブを回すと一応ピークがとれる。

BTUNEで送信を確認する・・・CARRIERを入れるとIC(IP)が流れ出し、PLATEノブを回すとDIPしLOADノブを右回しするとIPが増加していく・・・動作は正常のようだ。

A受信確認をする・・・感度大幅低下、チューニングずれか?。

@パネル・キャビネットの汚れ落とし・・・幸い錆付きは少なく、有っても塗装からにじむ程度。塗装部分はマイペットを吹き付け流れ出した汚れを拭き取る。さらに無水アルコールで汚れを消し去る。