昆夷道遠不復通,
世傳切玉誰能窮。
寶刀近出日本國,
越賈得之滄海東。
魚皮裝貼香木鞘,
黄白閒雜鍮與銅。
百金傳入好事手,
佩服可以禳妖凶。
傳聞其國居大島,
土壤沃饒風俗好。
其先徐福詐秦民,
採藥淹留丱童老。
百工五種與之居,
至今器玩皆精巧。
前朝貢獻屢往來,
士人往往工詞藻。
徐福行時書未焚,
逸書百篇今尚存。
令嚴不許傳中國,
舉世無人識古文。
先王大典藏夷貊,
蒼波浩蕩無通津。
令人感激坐流涕,
鏽澀短刀何足云。
******
日本刀歌
昆夷 道 遠ければ 復た通ぜず,
世に傳ふ 切玉 誰か能く 窮めん。
寶刀 近く 日本國に 出で,
越賈 之を 滄海の東に 得。
魚皮 裝ひ貼る 香木の鞘,
黄白 閒雜す 鍮と銅。
百金にて 傳へ入る 好事の手に,
佩服せば 以って 妖凶を 禳ふ 可し。
傳へ聞く 其の國は 大いなる島に居り,
土壤 沃饒にして 風俗 好しと。
其の先 徐福 秦の民を詐り,
藥を採ると 淹留して 丱童 老いたり。
百工 五種 之と與に 居り,
今に至るまで 器玩は 皆 精巧。
前朝に 貢獻して 屢しば 往來し,
士人 往往 詞藻に工なり。
徐福 行く時 書 未だ焚かざれば,
逸書 百篇 今 尚ほ存す。
令 嚴しくして 中國に傳ふるを 許さざれば,
世を舉りて 人の 古文を識るもの無し。
先王の大典は 夷貊に藏れ,
蒼波 浩蕩として 津を通ずる無し。
人をして 感激せしめて 坐に 流涕せしむるは,
鏽澀たる 短刀も 何ぞ云ふに足らん。
*****************
◎ 私感註釈
※歐陽脩:(欧陽修):北宋の人。政治家。詩人、散文作家。姓は欧陽(複姓)。字は永叔。号して醉翁、六一居士。謚は文忠。唐宋八大家の一。1007年(景徳四年)~1072年(煕寧五年)。
※日本刀歌:日本刀の歌。日宋貿易で日本の刀が中国に紹介されていることがよく分かる詩。この詩、或いは後出・唐・王維の『送祕書晁監還日本國』の「序」「卑彌遺使,報以蛟龍之錦,犧牲玉帛,以將厚意。服食器用,不寶遠物,百神受職,五老告期,況乎戴髮含齒。得不稽顙屈膝。海東國,日本爲大,服聖人之訓,有君子之風。正朔本乎夏時,衣裳同乎漢制。歴歳方達。繼舊好於行人,滔天無涯,貢方物於天子,同儀加等,位在王侯之先,掌次改觀,不居蠻夷之邸。我無爾詐,彌無我虞。彼以好來,廢關弛禁,上敷文敎,虚至實歸,故人民雜居,往來如市。」の影響を受けているともとれる。なお、後世、清・秋瑾も日本刀を『日本鈴木學士寶刀歌』「鈴木學士東方傑,磊落襟懷肝膽裂。一寸常縈愛國心,雙臂能將萬人敵。平生意氣凌雲霄,文驚坐客翻波濤。睥睨一世何慷慨?不握纖毫握寶刀。寶刀如雪光如電,精鐵鎔成經百煉。出匣鏗然怒欲飛,夜深疑共蛟龍戰。入手風雷繞腕生,眩睛射面色營營。山中猛虎聞應遯,海上長鯨見亦驚。君言出自安綱冶,于載成川造成者。神物流傳七百年,於今直等連城價。昔聞我國名昆吾,叱咤軍前建壯圖。摩挲肘後有呂氏,佩之須作王肱股。古人之物余未見,未免今生有遺憾。何幸獲見此寶刀,頓使庸庸起壯胆。萬里乘風事壯遊,如君奇節誰與儔?更欲爲君進祝語:他年執此取封侯。」
と歌う。
※昆夷道遠不復通:(名刀を産出するという西方の)異国・昆吾(こんご)までは、その道のりが遠く遥かで、交易や往来がずっと途絶えている。 ・昆夷:〔こんい;Kun1yi2○○〕昆吾(錕鋙)〔こんご;Kun1wu2〕という名の(西方の国の)えびす。ここでは、中国の西方にある鉄を産して、名刀を産出する昆吾という名の山に因る。その義は後出『列子・湯問』に基づく。『中国歴史地図集』第二冊 秦・西漢・東漢時期や、五冊 隋・唐・五代十国時期、第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)では見あたらないようだ。 ・不復通:交易や往来がずっと途絶えている。 ・不復:二度とは…ない。また…ず。部分否定と似ているがそうではない。蛇足になるが、「復不」とは読みは同じになるが、意味は異なる。『史記』の荊軻『易水歌』には「風蕭蕭兮易水寒,壯士一去兮不復還。」とある。 ・通:往来する。
※世傳切玉誰能窮:世に切玉の宝刀のことが伝えられてはいるが、だれが(そこまで)つきつめたずねられようか。 ・切玉:昆吾(こんご)産の宝刀の名。玉(ぎょく)をも(あたかも粘土を切るかのように)切る、ということからついた。『列子・湯問』第五に「周穆王大征西戎,西戎獻昆鋙之劍,…煉鋼赤刃。用之切玉,如切泥焉。」 とあり、このことをいう。 ・誰能:だれか…ができようか。だれも…できまい。 ・窮:つきつめたずねる。きわめる。いきつく。
※寶刀近出日本國:(昆夷の名刀はだめになったが、幸いにも)宝刀が近く、日本国より見つかり。
※越賈得之滄海東:浙江の商人が、青い海の東の方の日本から名刀を手に入れた。 ・越賈:現・浙江省の商人。浙江省の寧波(ニンポー)あたりの商人。日宋貿易の従事者。 ・得之:これ(名刀)を手に入れる。 ・滄海東:青い海の東の方。日本のことを指す。王維の『送祕書晁監還日本國』の「積水不可極,安知滄海東。九州何處遠,萬里若乘空。向國惟看日,歸帆但信風。鰲身映天黑,魚眼射波紅。鄕樹扶桑外,主人孤島中。別離方異域,音信若爲通。」
に基づく。
※魚皮裝貼香木鞘:鮫の皮が香木のサヤに貼りつけられており。 ・魚皮:鮫(さめ)の皮。鮫肌。 ・香木鞘:香木のサヤ。
※黄白閒雜鍮與銅:金色と銀色に混ざりあうのは、真鍮と銅だ。 *日本刀の華麗な造りをいう。 ・閑雜:混ざる。ごっちゃになる。間に交じって。「間雜」。なお、ここでの「閒(間)」は動詞:「まじる、へだてる」で●。蛇足になるが、名詞:「あいだ」は○。 ・鍮與銅:真鍮と銅。 ・鍮:〔ちう(とう);tou1○〕銅合金。黄銅。真鍮(しんちゅう)。
※百金傳入好事手:大金で、好事家(こうずか)の手中に収まり。 ・百金:大金。 ・傳入:輸入する。 ・好事手:好事(かうず)家の手中(に)。
※佩服可以禳妖凶:(刀を)帯びれば、凶事を祓うことができる。 ・佩服:〔はいふく;pei4fu2●●〕身につける。(刀を)帯びる。(太刀を)はく。 ・可以:…することができる。可能を表す。上古から現代に至るまで使われている息の長いことば。 ・禳:〔じゃう;rang2○〕神を祀って災いを祓う。はらう。 ・妖凶:凶事。縁起悪いこと。
※傳聞其國居大島:伝え聞くところでは、その国(日本)は大きな島にあって。 ・傳聞:伝え聞く(ところでは…だそうだ)。 ・其國:その国。日本を指す。 ・居:おく。住む。 ・大島:日本の国土を指す。三島と表現する場合がある。清末・秋瑾の『日人石井君索和即用原韻』「漫云女子不英雄,萬里乘風獨向東。詩思一帆海空闊,夢魂三島月玲瓏。銅駝已陷悲囘首,汗馬終慚未有功。如許傷心家國恨,那堪客裏度春風!」や、清末・梁啓超の『愛國歌』「泱泱哉!吾中華。最大洲中最大國,廿二行省爲一家。物産腴沃甲大地,天府雄國言非誇。君不見,英日區區三島尚崛起,況乃堂矞吾中華。結我團體,振我精神,二十世紀新世界,雄飛宇内疇與倫。可愛哉!吾國民。可愛哉!吾國民。」
や、清末・康有爲の『呈東國諸公』に「櫻花開罷我來遲,我正去時花滿枝。半歳看花住三島,盈盈春色最相思。」
とある。蛇足になるが、我が国の本州は、現代中国語では“本州島”という。やはり、日本を「島」と感じているということのようだ。
※土壤沃饒風俗好:土地はよく肥えて、風俗が素晴らしい(ということだ)。 ・土壤:〔どじゃう;tu3rang3●●〕つち。つちくれ。国土。 ・沃饒:〔よくぜう;wo4rao2●○〕地が肥えて作物が多く採れる。 ・風俗好:唐・王維の『送祕書晁監還日本國』の「序」でいえば、「海東國,日本爲大,服聖人之訓,有君子之風。正朔本乎夏時,衣裳同乎漢制。」になろう。「序」の青字部分参照。
※其先徐福詐秦民:その(日本人の)祖先は徐福(じょふく)で、秦の民(たみ)をあざむいて。 ・其先:その祖先。日本人の先祖。 ・徐福:秦・始皇帝の時代の人物。秦・始皇帝のために東海の仙島(ここでは日本)から不老不死の霊薬を持ち帰ろうとした人物。徐巿(じょふつ=徐福)は始皇帝に上書して皇帝のために東海の仙島に渡り、不死の薬を求めてきて献上するとして、援助を得、少年少女(や技術者、五穀の種子)を積んで出かけた。『史記・秦始皇本義』「二十八年」(秦・始皇帝二十八年:紀元前219年:孝霊天皇七十二年)に「齊人徐巿【徐巿(じょふつ)=徐福(じょふく)。なお「巿()」〔ふつ;fu4●:4劃〕と「市(
)」〔し;shi4●:5劃〕とは別字】等上書,言海中有三神山,名曰蓬莱、方丈、瀛洲,仙人居之。請得齋戒,與童男女求之。於是遣徐巿發童男女數千人,入海求仙人。」とあり、その古註に「正義括地誌云:『亶洲在東海中,秦始皇使徐福將童男女入海求仙人,止在此州,共數萬家。』」とある。また、『史記・淮南衝山列伝』によると、秦の始皇帝に、「東方の三神山に不老不死の霊薬がある」と上書し、始皇帝の命を受け、三千人の童男童女と、それをたすけるために、五穀の種子と諸々(もろもろ)の技術者を携えてでかけた。徐福は、平野と湿地帯を得て、その地にとどまって王となり、戻らなかった。『史記・淮南衡山列伝』に「秦皇帝大説,遣振(振:幼童)男女三千人,資之五穀種種百工而行。徐福得平原廣澤,止王不來。」とある。明・朱元璋(大明太祖高皇帝)の『御製賜和』に「熊野峰高血食祠,松根琥珀也應肥。當年徐福求僊藥,直到如今更不歸。」
とあり、日本・絶海中津の『應制賦三山』に「熊野峰前徐福祠, 滿山藥草雨餘肥。 只今海上波濤穩, 萬里好風須早歸。」
とある。 ・詐:〔さ;zha4●〕いつわる。あざむく。たぶらかす。唐・王維の『送祕書晁監還日本國』
「序」の茶色字部分参照。
※採藥淹留丱童老:(長生不老の仙)薬を採取する(といって、日本に)久しくとどまり、(連れて行った)少年も、年取ってしまった。 ・採藥:(長生不老の仙)薬を採取する。 ・淹留:〔えんりう;yan1liu2○◎〕久しくとどまる。滞在する。逗留する。宋玉『楚辭・招隱士』「攀援桂枝兮』「攀援桂枝兮聊淹留。王孫遊兮不歸,春草生兮萋萋。」とあり、東晉・陶潛の『九日閒居』に「世短意常多,斯人樂久生。日月依辰至,舉俗愛其名。露淒暄風息,氣澈天象明。往燕無遺影,來雁有餘聲。酒能祛百慮,菊爲制頽齡。如何蓬廬士,空視時運傾。塵爵恥虚罍,寒華徒自榮。歛襟獨閒謠,緬焉起深情。棲遲固多娯,淹留豈無成。」や、唐・上官婉兒の『遊長寧公主流杯池二十五首之十一』に「暫爾遊山第,淹留惜未歸。霞窗明月滿,澗戸白雲飛。書引藤爲架,人將薜作衣。此眞攀玩所,臨睨賞光輝。」
とある。 ・丱童:〔くゎんどう;guan4tong2●○〕髪をあげまきにした幼童。徐福が連れて行った児童を指す。
※百工五種與之居:各種の技術者(と五穀の種子)は、彼等(徐福(徐市)と童男女數千人)と共においた(ので)。 *文化は彼等が日本に齎した、ということを述べる。 ・百工:各種の職人。百官。多くの官吏。 ・五種:五穀の種子。但し、そう見ると「居」という表現と合いづらい。 ・與:(…と)ともに。 ・之:これ。徐福(徐市)と童男女數千人。 ・居:おく。また、いる。ここは、前者の意。
※至今器玩皆精巧:(それ故)今でも道具は、皆、精密でたくみにできている。 ・至今:今でも。今に至るも。 ・器玩:〔きぐゎん;qi4wan2●◎〕もてあそび物。愛玩用の道具。おもちゃ。 ・精巧:〔せいかう;jing1qiao3○●〕細やかでたくみなこと。
※前朝貢獻屢往來:前の王朝の時から貢(みつ)ぎ物をたてまつりに、しばしば行き来しており。 ・前朝:一つ前の王朝。晩唐・杜牧は、『赤壁』で「折戟沈沙鐵未銷,自將磨洗認前朝。東風不與周郞便,銅雀春深鎖二喬。」とする。 ・貢獻:みつぎ物をたてまつる。また、国家・社会・文化などのために力をつくす。ここは、前者の意。王維の『送祕書晁監還日本國』
の「序」の黒字部分参照。 ・屡:〔る;lyu3●〕しばしば。 ・往來:行き来。王維の『送祕書晁監還日本國』
の「序」の紫字部分参照。
※士人往往工詞藻:教養ある階層の人々は、しばしば詩歌にたくみである。 ・士人:学問・修養をつんだ人。官吏や学者の家柄。 ・往往:つねづね。しばしば。ときどき。まま。時として。 ・工:巧みである。 ・詞藻:〔しさう;ci2zao1○●〕文章の修辞。ことばのあや。美しいことば。詩及び美文の用語。優れた詩文。
※徐福行時書未焚:徐福が(日本を目指して)出かけた時は、(秦・始皇帝による焚書坑儒が)まだ実施されていない時で。 ・行時:出かけた時。秦・始皇帝二十八年:紀元前219年:孝霊天皇七十二年の時。なお、「焚書」は秦・始皇帝三十四年:紀元前213年:孝元天皇二年のことなので、「焚書」の行われる六、七年前。(-213年)-(-219年)=6年。 ・書未焚:秦・始皇帝による焚書坑儒がまだ実施されていない時。「焚書」(言論統制の手段としての書物を焼きすてること)がまだ実施されていない時。(秦・始皇帝三十四年:紀元前213年:孝元天皇二年=焚書)以前の時。 *なお、「焚書」ではこの医薬、卜筮、農業などの実用書以外は全て焼きすてられた。『史記・秦始皇本義』三十四年「今諸生不師今而學古,以非當世,惑亂黔首。…語皆道古以害今,飾虚言以亂實…史官非秦記皆燒之。非博士官所職,天下敢有藏詩、書、百家語者,悉詣守、尉雜燒之。有敢偶語詩書者棄市。以古非今者族。吏見知不舉者與同罪。令下三十日不燒,黥爲城旦。所不去者,醫藥卜筮種樹之書」。更に、翌・始皇帝三十五年(=「坑儒」)には、儒生四百六十余人が咸陽で坑(あなうめ)にされた。『史記・秦始皇本義』三十五年「於是使御史悉案問諸生,諸生傳相告引,乃自除犯禁者四百六十餘人,皆阬之咸陽,使天下知之,以懲後。」とある。双方を合わせて「焚書坑儒」という。
※逸書百篇今尚存:(中国で散佚してしまった)書籍が100篇ほど、今なお保存されている。 *詩では、これらの古典の逸書は徐福が日本に齎した、という設定になっている。 ・逸書:〔いつしょ;yi4shu1●○〕昔の書物で世の中からなくなったもの。かつて存在していたが散佚してしまった書籍。また、漢初の伏生が伝えた二十九編以外の『古文尚書』。ここは、前者の意。 ・今尚存:今なお、(日本では)伝えられている。 *日本に遺されている書物。相当数あるという。
※令嚴不許傳中國:(日本の天子の)命令は厳(きび)しくて、中華の地に伝えることを許さない。 ・令:いいつけ。命令。名詞。 ・嚴:きびしい。厳格である。 ・不許:許さない。許可しない。 ・中國:中原。文明中国。中華の地。
※舉世無人識古文:(中国では)世の中こぞって、だれも古い字体を知らなくなってしまった。 ・舉世:世の中こぞって。世をあげて。ここでは、「漢土では」「中国中で」の意。 ・無人識:だれも知らない。 ・無人-:だれも…ない。 ・識:知る。 ・人:ここでは、中国人を指す。 ・古文:中国の古い文字や文章。秦代以前に使われた字体の文字。また、篆書、鐘鼎文、蝌蚪文などの字体で書かれた経書。
※先王大典藏夷貊:(中国の)古代の帝王の重要な書物が、東北方の未開の異民族(日本を指す)の許に収められている(が)。 ・先王:〔せんわう(せんなう;xian1wang2○○)〕古代(中国の)帝王。(漢民族の)祖先の帝王。 ・大典:〔たいてん;da4dian3●●〕重要な書物。立派で部数の多い書物。また、重大な儀式や制度。ここは、前者の意。 ・藏:〔ざう(さう);cang2○〕おさめる。しまっておく。 ・夷貊:〔いばく;yi2mo4○●〕東北方の異民族を卑しんでいうことば。東北方の未開人。ここでは、日本を指す。
※蒼波浩蕩無通津:青い波が広々としており、(逸書を見るための日本への船の)渡し場は無い。 ・蒼波:(年老いたような)青黒い波。あおい波。蒼浪。碧浪。≒「滄波」「滄浪」。 ・浩蕩:〔かうたう;hao4dang4●●〕水の広々としているさま。広大なさま。また、志のほしいままなさま。思慮のないさま。ここは、前者の意。 ・通津:渡し場。
※令人感激坐流涕:人を感激させて、そぞろに涙を流させるのは。 ・令:(…に)…をさせる。(…をして)…しむ。使役表現。 ・令人:人に…させる。人をして…しむ。この語、「人」の意味は残っているが、具体的にどのような人なのかと考える必要がないほど意味は軽くなっている。 ・坐:そぞろに。何とはなしに。いながら。何もせずに。じっとして。晩唐・杜牧の『山行』に「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」とあり、明・高啓は『登金陵雨花臺望大江』で「大江來從萬山中,山勢盡與江流東。鍾山如龍獨西上,欲破巨浪乘長風。江山相雄不相讓,形勝爭誇天下壯。秦皇空此瘞黄金,佳氣葱葱至今王。我懷鬱塞何由開,酒酣走上城南臺。坐覺蒼茫萬古意,遠自荒煙落日之中來。石頭城下濤聲怒,武騎千群誰敢渡。黄旗入洛竟何祥,鐵鎖橫江未爲固。前三國,後六朝,草生宮闕何蕭蕭。英雄乘時務割據,幾度戰血流寒潮。我生幸逢聖人起南國,禍亂初平事休息。從今四海永爲家,不用長江限南北。」
と使う。 ・流涕:涙を流す。
※鏽澀短刀何足云:(人を感激させて、涙を流させるのは)錆び附いた短刀であっても、いうには及ばない。(たとえ錆び附いた短刀であっても、人を感激させて、涙を流させるのだ。) ・鏽澀:〔しうじふ;xiu4se4●●〕さび。さびがつく。 ・何足:…するに及ばない。…に足(た)らぬ。 ・云:(…と、このように)いう。…のことなり。なりとぞ。
***********
◎ 構成について
作品全体の韻式は「AAAAAbbbbbCCCCC」。換韻。韻脚は「通窮東銅凶 島好老巧藻 焚存文津云」で、平水韻上平一東・二冬。上声十九皓。上平十二文。この作品の平仄は次の通り。
○○●●●●○,(A韻)通
●○●●○○○。(A韻)窮
●●●●●●●,
●○●○○●○。(A韻)東
○○○●○●●,
○●●●○●○。(A韻)銅
●○○●●●●,
●●●●○○○。(A韻)凶
○○○●○●●,(b韻)島
●●●○○●●。(b韻)好
○○○●●○○,
●●○○●○●。(b韻)老
●○●●◎○○,
●○●●○○○。(b韻)巧
○○●●●●○,
●○●●○○●。(b韻)藻
○●○○○●○,(C韻)焚
●○●○○●○。(C韻)存
●○●●◎○●,
●●○○●●○。(C韻)文
○○●●○○●,
○○●●○○○。(C韻)津
●○●●●○●,
●●●○○●○。(C韻)云
2003.6.24 2009.5. 9再開 5.10 5.11完 2015.3.28補 2017.9.12 2020.8.22 2022.3. 6 |
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