珠簾白露玉階光, 添得秋螢夜正涼。 點點隨風流不定, 亦追高樹入昭陽。 |
珠簾 白露 玉階の光,
添へ得て 秋螢 夜 正に涼し。
點點として 風に隨ひて 流れて 定まらずして,
亦た 高樹を 追ひて 昭陽に 入る。
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◎ 私感註釈
※服部南郭:天和三年(1683年)〜寶暦九年(1759年)江戸時代中期の古文辞学派の儒者、詩人。名は元喬。字は子遷。南郭は号になる。京都の人。
※流螢篇:飛んでゆくホタルの歌。夏が終わろうとして秋の気配が感じられる頃の情景。この作品は謝の『玉階怨』「夕殿下珠簾,流螢飛復息。長夜縫羅衣,思君此何極。」に基づく。 ・流螢:飛び交うホタル。漢魏六朝唐詩では、「流螢」といえば、女性の立場に立っての歌で、失寵を意味し、移り行く情愛を哀しむことになる。この作品も結句に「昭陽」の語があり、「珠簾」や「玉階」といった婉約の語彙が使われているため、或いはやはり情愛の変遷をうたっているのか。当時の服部南郭の身辺を調べると答えが出てこよう。杜牧の『秋夕』「銀燭秋光冷畫屏,輕羅小扇捕流螢。天階夜色涼如水,臥看牽牛織女星。」にそのことが詳しくある。
※珠簾白露玉階光:玉スダレにも白い露がおりて、立派なきざはしも夜露で濡れて輝き。 ・珠簾:玉スダレ。宝玉で作った女性の閨のすだれ。李Uの『浪淘沙』「往事只堪哀,對景難排。秋風庭院蘚侵階。一任珠簾閑不卷,終日誰來。 金鎖已沈埋,壯氣蒿莱。晩涼天靜月華開。想得玉樓瑤殿影,空照秦淮。」 や、杜牧の七絶『贈別・二首其一』「娉娉嫋嫋十三餘,荳梢頭二月初。春風十里揚州路,卷上珠簾總不如。」とある。 ・白露:しらつゆ。 ・玉階:宮殿のきざはし。立派なきざはし。ここでは前出の『玉階怨』をもふまえていよう。 ・光:ひかる。
※添得秋螢夜正涼:その上に、秋口のホタルが飛んできて、涼味は一層増した。 ・添得:添えた(結果)。 ・秋螢:秋口のホタル。中国詩では、秋口の衰えたホタル。 ・正:ちょうど。ほんとうに。 ・涼:すずしい。
※點點隨風流不定:点々と、風の吹くままに流されていって定まることもなく。 ・點點:点々と。ぽつぽつと。 ・隨風:風の吹くままに。風に乗って。 ・流不定:流れていって定まらない。漢語独特の表現法。現代語とは、やや意味が異なる。
※亦追高樹入昭陽:高い木を目指して、皇帝のいる昭陽殿にまで入っていった。 ・亦:…であり、また…。…もまた、…。 ・追:追いかける。 ・高樹:高い木。 ・昭陽:漢代の宮殿の名。昭陽殿。皇帝の寵愛を暗示する語。素直に読むと、女性が作者を裏切って、身分の高い男性の許に行ってしまった、ということになる。白居易の『長恨歌』に「含情凝睇謝君王,一別音容兩渺茫。昭陽殿裡恩愛絶,蓬莱宮中日月長。回頭下望人寰處,不見長安見塵霧。」がある。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「光涼陽」で、平水韻下平七陽。次の平仄はこの作品のもの。
○○●●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
平成16.3.31完 4. 1補 |
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