李煜詞
無言獨上西樓, 月如鈎。 寂寞梧桐深院 鎖淸秋。 剪不斷, 理還亂, 是離愁。 別是一般滋味 在心頭。 ![]() |
言 無く 獨り 西樓に上れば,
月 鈎の 如し。
寂寞たる 梧桐の 深き院 清秋を鎖す。
剪りても 斷てず,
理へども 還た 亂るるは,
是 離愁。
別に是 一般の滋味の 心頭に在り。
**********
私感注釈
※烏夜啼:詞牌の一。『相見歡』ともいう。同調異名。正確には異調同形。この作品の詞牌を『相見歡』としているものもある。それは、これを李煜の女性に対する情愛の歌と見ているからであり、写真下でも「秋閨」とされているのはそのため。この作はは李煜が京に囚われていた時の作とする。そうすれば、『烏夜啼』。詞調は同一でも、曲調が違う。『烏夜啼』はその名の通り暗い音楽だったはず。現代でもそのイメージを利用して、本のタイトルにするくらいである。なお、『烏夜啼』には異体があり、四十七字のもの
もある。これは『錦堂春』、『聖
無憂』ともいう。双調。換韻。詳しくは下記「構成について」を参照。
※無言獨上西樓:独り無言で西側のたかどのに上れば。 ・無言:だれと話すこともなく、独り無言で、ことばの無い静寂を表す。晩唐・唐彦謙の『金陵懷古』「碧樹涼生宿雨收,荷花荷葉滿汀洲。登高有酒渾忘醉,慨古無言獨倚樓。宮殿六朝遺古跡,衣冠千古漫荒丘。太平時節殊風景,山自靑靑水自流。」や、 『喜遷鶯』「曉月墜,宿雲微,無語枕頻欹。」
というのもある。 ・獨:独りぼっち。 ・西樓:西側のたかどののことだが、たとえ実際は「南楼」であっても、このような状況下の表現では「西楼」とすべきものである。例えば、陽春に友と酒を酌み交わすのは「南楼」であって、夏に涼を取るのは「北楼」であり、故郷で談笑するのは「東楼」がいいとか…。「西」には用例上、凋落の感じを漂わせた語である。
※月如鈎:三日月のように鈎型になった月を言う。電灯のない昔のこと、当然月明かりの乏しい真っ暗な夜の景色を見ていることになる。鬼気迫る情景である。これらで『烏夜啼』は本意であるといえる。
※寂寞梧桐深院 鎖淸秋:さびしげなあおぎりの繁る奥庭には薄ら寒い寂しげな秋を封じこめている。 ・寂寞:さびしげな。 ・梧桐:あおぎりときりの木。落魄、零落を暗示する働きを持つ語。 ・深院:奥庭。中庭。院とは、塀や建物で囲まれた中庭。中国の伝統的な御殿は、塀で幾重にも区切られた庭園がある。 ・鎖:とじこめる。封じこめている。 ・清秋:薄ら寒い秋、寂しげな秋、であって、清らかな秋ではない。前出『喜遷鶯』にも「啼鶯散,餘花亂,寂寞畫堂深院。片紅休掃盡從伊,留待舞人歸。」がある。
※剪不斷:「きっても断ち切れない」という、為し得ないことを表現する際の語順。もし「断ち切らない」という自分の意志の否定だと、敢えて言えば「不剪斷」となる。李賀の『蘇小小墓』に「幽蘭露,如啼眼。無物結同心,煙花不堪剪。草如茵,松如蓋。風爲裳,水爲珮。油壁車,久相待。冷翠燭,勞光彩。西陵下,風雨晦。」とある。 ・剪:〔せん;jian3●〕はさみで切る。はさみきる。断ち切る。「翦」と同義同音。(右上写真参照)
※理還亂:整えても またすぐ乱れる。 ・理:整える。整理、理髪の理。 ・還:なおまだ。現代口語でも、この用法はよく使う。
※是離愁:それは、別離の愁いである。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。断ち難く、収め難いのは、離愁である。という働きをする。 ・離愁:遠く京にいて、故郷金陵の宮廷を始めとする南唐への思いをいう。
※別是一般滋味 在心頭:(断ち難く、収め難い離愁が李煜を襲ってくるが)何とも言い表せない特別な一種独特のあじわいが心に生じてくることだ。蛇足だが、現代語では「別有一般滋味」(一種異なった味わいがある)がある。 ・別是:べつに これ。この語だけでは訳しにくい。 ・一般:詞語では、一種の。一種独特の。「一般」を「一番」とする書もある。 ・滋味:あじわい。 ・心頭:こころ。頭は名詞などの後ろに付く接尾辞。取り立てて訳せない。
◎ 構成について
双調。三十六字。換韻。韻式は「AAA bbAA」
九字句は六字と三字等に分かれること。(異体有り)
○
●○○,(A平韻)
●○○。(A平韻)
●
○
●・●○○。(A平韻)
●,(b仄韻)
○●。(b仄韻)
●○○。(A平韻)
●
○
●・●○○。(A平韻)
韻脚:「樓鈎秋」は「第十二部平声」。「斷亂」は「第七部去声」。「愁頭」は「第十二部平声」。
この作品は極めて正確に作られている。
2000.4.24 4.25完 5.20補 10.15 12. 9 2001.4. 4 12.21 2007.3.24 5.17 |
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