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我聞琵琶已歎息,
又聞此語重喞喞。
同是天涯淪落人,
相逢何必曾相識。
我從去年辭帝京,
謫居臥病潯陽城。
潯陽地僻無音樂,
終歳不聞絲竹聲。
住近湓江地低濕,
黄蘆苦竹繞宅生。
其間旦暮聞何物,
杜鵑啼血猿哀鳴。
春江花朝秋月夜,
往往取酒還獨傾。
豈無山歌與村笛,
嘔唖嘲哳難爲聽。
今夜聞君琵琶語,
如聽仙樂耳暫明。
莫辭更坐彈一曲,
爲君翻作琵琶行。
感我此言良久立,
卻坐促絃絃轉急。
淒淒不似向前聲,
滿座重聞皆掩泣。
座中泣下誰最多,
江州司馬青衫濕。
琵琶行 終尾
我 聞く 琵琶 已に 歎息するを,
又 聞く 此語 重ねて 喞喞たるを。
同(とも)に是れ 天涯 淪落の人,
相ひ逢ふに 何ぞ必ずしも 曾ての相識たらん。
我 去年 帝京を 辭して 從り,
謫居して 病に臥す 潯陽城。
潯陽 地 僻りて 音樂 無く,
終歳 聞かず 絲竹の聲を。
住は 湓江に 近く 地は 低濕,
黄蘆 苦竹 宅を繞りて生ず。
其の間 旦暮 何物をか聞く,
杜鵑は 血に啼き 猿は 哀れに鳴く。
春江 花の朝 秋月の夜,
往往 酒を取りて 還た 獨り 傾く。
豈に 山歌 與(と)村笛の 無からんや,
嘔唖(おうあ) 嘲哳(てうたつ) 聽くを爲し難し。
今夜 君の 琵琶の語を 聞くに,
仙樂を 聽くが如く 耳 暫く 明たり。
辭する 莫れ 更に坐して 一曲を彈け,
君が爲に 翻して琵琶行を 作らん。
我が 此の言に 感じて 良(はた)して 久しくして 立ち,
座に卻って絃を促(し)めれば 絃 轉(うたた)た 急。
淒淒として 似ず 向前(きゃうぜん)の聲に,
滿座 重ねて聞くに 皆 掩ひて泣く。
座中 泣(なみだ)下ること 誰か 最も多き,
江州の司馬 青衫 濕ふ。
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◎ 私感註釈
※これは、最終部分。
※我聞琵琶已歎息:わたしは琵琶の音色を聞いた(だけで)すでに歎息しているのに。
※又聞此語重喞喞:又もや(その上に)この語ることばを聞けば、重ねてため息の声が出てくる。 ・喞喞:嘆息の声。
※同是天涯淪落人:ともに落ちぶれ果てて地の果てを流浪する者である。 ・天涯:天の果て ・淪落:落ちぶれる。 ・天涯淪落:落ちぶれ果てて地の果てを流浪すること。
※相逢何必曾相識:(偶然の)巡り逢いにどうして曾ての知り合いでないといけないことがあろうか。 ・相逢:偶然に行きあうこと。 ・何必:必ずしも…するに及ばぬ。どうして…の必要があろうか、あるまい。何ぞ必ずしも…せん。 ・曾:以前の。 ・相識:知り合い。知己。ここでは動詞として「知り合いである」。
※我從去年辭帝京:わたしは、去年みやこをを辞去してより。 ・帝京:みやこ。皇都。帝都。
※謫居臥病潯陽城:謫されて、潯陽の街で病に臥せっている。 ・謫居:罪を得て遠いところへ流されること。
※潯陽地僻無音樂:潯陽は、辺鄙なところで、(気の利いた)音樂などは無く。 ・地僻:辺鄙なところ。
※終歳不聞絲竹聲:一年中、管絃の音楽を耳にすることはない。 ・終歳:まる一年。一年中。
※住近湓江地低濕:住んでいるところは、湓江に近くて、(そのため)低濕地となっている。 ・湓江:江西省を流れる川の名。
※黄蘆苦竹繞宅生:黄色く枯れた蘆やメダケが家屋を繞って生えている。 ・黄蘆:黄色く枯れたアシ。 ・苦竹:メダケに近い竹。
※其間旦暮聞何物:その間の朝から夕べまで、何を聞いているかといえば。 ・旦暮:朝夕。ここでは朝、明けてから、暮れるまで。
※杜鵑啼血猿哀鳴:ホトトギスが啼いて血を吐き、猿が哀れっぽく鳴いている(のを聞いている)。 ・杜鵑:ホトトギス。 ・啼血:血を吐いて鳴く。ホトトギスの鳴き声が、悲しげなところからいわれる。李商隠の詩にホトトギスを詠って「莫學啼成血,從教夢寄魂。」とある。
※春江花朝秋月夜:春の川の流れに、花咲く朝、そして秋月の夜と、一年中いつも。
※往往取酒還獨傾:しばしば酒壷を取って、なおも獨りで盃を傾けて飲んでいる。 ・往往:しばしば。
※豈無山歌與村笛:どうして山歌や村笛が無いのか、いや、あるにはあるが…。 ・山歌:竹枝詞のような歌。山の歌。そま歌。 ・村笛:鄙びた笛等の音楽。 ・與:…と。
※嘔唖嘲哳難爲聽:キーキー、ギャーギャーと聴きづらいものだ。 ・嘔唖:〔おうあ;ou1ya1○○〕(白話)擬声語。ギャーギャー。キーキー。赤ん坊の泣き声。鳥の鳴き声。きしむ音。「唖」字の読みは、〔あ;ya3〕:おし、おどろきの声、〔ya1〕:幼児の片言、〔ya1〕:鳥の声」、〔あく;e4〕:笑い声。 ・嘲哳:〔てうたつ;zhao1zha1○●〕(白話)たくさんの人の声が小さく入り乱れているさま。
※今夜聞君琵琶語:今夜、あなたの琵琶の音色を聞いていると。 ・語:詩詞では「鳥語」「込ナ陰裏黄鶯語」などと音色や「怨春不語」「花語」と広く使う。
※如聽仙樂耳暫明:仙樂を聽いているようで、耳はしばらくすっきりとした。
※莫辭更坐彈一曲:辭去しないで、もっと坐って一曲を彈け。 ・莫:禁止…するな。 ・辭:辞去する。 ・更:もっと。
※爲君翻作琵琶行:君の爲に(音楽を)詩に翻訳して琵琶の行(うた)を作ろう。 ・翻作:音楽を詩に翻案すること。 ・琵琶行:琵琶の行(うた)。 ・行:歌行のこと。
※感我此言良久立:わたしのこの言葉に感じ入って、はたして、しばらくたったままでいたが。 ・良:(白話)はたして。久しくして。
※卻坐促絃絃轉急:座について、弦をしめてたちまち急に。 ・卻坐:(白話)後に戻って座る。 ・促絃:弦をしめる。 ・轉うたた。たちまち。
※淒淒不似向前聲:すさまじい弾き方で、さっきまでとは全然違った調べで。 ・淒淒:すさまじい ・不似:似ていない。違う。 ・向前:〔きゃうぜん;xiang4qian2●○〕以前と。
※滿座重聞皆掩泣:その場にいる者全てが重ねて聞いたが皆、顔を掩って涙を流して泣いた。 ・泣:声を出さないでなくこと。忍び泣き。涙。
※座中泣下誰最多:座中で、なみだをながすのは、誰が最も多かっただろうか。 *自問している。 ・泣下:(白話)落涙する。涙を流す。
※江州司馬青衫濕:(それは)江州の司馬(自分自身にこと)であって、(その着ている)青衫は(涙で)濕っている。
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2001.12.16 2002. 2. 7完 2008. 4.22補 2016. 3.12 |
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