雜樹夾溪昏, 歸雲抱石屯。 鳥身看不見, 聲大似人言。 |
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甲山路上
雜樹 溪を挟みて昏(くら)く,
歸雲 石を抱(いだ)きて屯(たむろ)す。
鳥身 看るも見えず,
聲 大にして 人の言ふに似たり。
◎ 私感註釈 *****************
延享五年(1748)〜文政十年(1827)姓は菅波、名は晉師(ときのり)、字は礼卿、通称は太仲。茶山は、号になる。江戸時代後期の備後の人。菅茶山についてはこちらを参照。
※甲山道中:尾道から石州浜田への道程の途上の地名。 ・甲山:地名。伊勢丘人先生によると、これは備後の甲山で、尾道から石州(石見の国)浜田への道程の途中の地で、このあいだの町村合併から、世羅町と合併したところ、とのことである。
※雜樹夾溪昏:様々な樹が谷川の両岸から挟む(ように覆い被さってきて、)薄暗い。 ・雜樹:様々な樹木。雑木(ぞうき)。 ・夾:はさむ。 ・溪:谷。谷川。 ・昏:くらい。日没後の数時間内のあやめの見えない薄暗がりをいう。
※歸雲抱石屯:夕暮れに山に帰る雲は石の丘を包み、かかっている ・歸雲:夕暮れ時に山に向かって流れる(帰って行く)雲。 ・抱:(雲が)覆いかぶさる。(雲が)つつむ。*晋・謝靈運の『過始寧墅』に「山行窮登頓,水渉盡沿。巖峭嶺稠疊,洲渚連綿。白雲抱幽石,坂ェ媚清漣。葺宇臨迴江,築觀基曾巓。」とあり、唐・寒山詩に「重巖我卜居,鳥道絶人跡。庭際何所有,白雲抱幽石。住茲凡幾年,屡見春冬易。寄語鐘鼎家,虚名定無益。」とある。 ・石屯:石の丘。石のかたまり。 ・屯:〔とん;tun2○〕丘。かたまり。集まっているところ。動詞とみれば、集まる。ここの「歸雲抱石屯」の句は、節奏からみれば「歸雲 抱・石屯」で「石屯」を名詞「岩の塊」と見るのが自然。ただそのような語はなかろう。ここは詩意から考えて作者の意図は「歸雲 石 屯」で、「石を抱きて屯ず」と「屯」を動詞と見るのが自然だろう。
※鳥身看不見:鳥の姿は見えないが。 ・鳥身:鳥の姿。鳥の肉体。貫休の『黄鶯』に「一種爲春禽,花中開羽翼。如何此鳥身,便是黄金色。黄金色,若逢竹實終不食。」とある。 ・看不見:見えない。口語(俗語)的表現。「得」の否定で、「見ようと思っても(他の物体が視界を遮って)見えない」ということ。⇔看得見。
※聲大似人言:鳴き声が大きく、人の喋る言葉に似ている。 ・聲大:声が大きいこと。 ・似:…に似ている。 ・人言:人の喋る言葉。人語。「人語」としなかったのは、韻脚のため。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「昏屯言」で、平水韻上平十三元。次の平仄はこの作品のもの。
●●●○○,(韻)
○○○●○。(韻)
●○◎●●,
○●●○○。(韻)
平成19.3.11 |
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