香風綺月度林頭, 花影溶溶踏欲流。 半夜玉人猶未寐, 笛聲遙在水精樓。 |
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春夜
香風 綺月(きげつ) 林頭を 度(わた)り,
花影 溶溶として 踏まば 流れんと欲す。
半夜 玉人 猶(な)ほ未(いま)だ 寐(い)ねず,
笛聲 遙か 水精樓に 在り。
◎ 私感註釈 *****************
※貫名海屋:江戸時代後期の儒学者、書家、文人画家。号して菘翁。
※春夜:春の宵、明月を愛でながらの散策を詠う。 *釈文=伊勢丘人先生。
※香風綺月度林頭:よいにおいのする風や、あやぎぬのように美しい月が、林の辺りを通り。 ・香風:よいにおいのする風。 ・綺月:〔きげつ;qi1yue4○●〕あやぎぬのように美しい月。みごとな月。 ・度:わたる。(年月や水を)わたる。ずっと通って先へ行く。 ・林頭:林の繁みの上。林の辺り。
※花影溶溶踏欲流:(月の光に)花の落とす影は広大で、影を踏んで(名月を観賞しながら)歩けば、とめどもなくさまよってしまう。 ・花影:〔くゎえい;hua1ying3○●〕(月などの光に因って)花の落とす影。 ・溶溶:〔ようよう;rong2rong2○○〕(心や水などが)広大なさま。 ・踏:ふむ。「踏月」のことで、月影を踏んで名月を観賞しながら歩くこと。 ・欲:…うとなる。…とする。 ・流:さまよいゆく。めぐる。この語、難しい。
※半夜玉人猶未寐:(もう)夜中になるが玉のような美女は、まだ寝ていないないようで。 ・半夜:夜中。夜半。 ・玉人:玉(ぎょく)のように美しい人。美女。 ・猶未:(前から今まで)ずっとまだ…ない。なほいまだ…。 ・寐:〔び;mei4●〕ねる。ねむる。いぬ。
※笛聲遙在水精樓:笛の音(とともに)遥かな水精樓に在って(微かに聞こえてくる)。 ・笛聲:笛の音。 ・遙在:遠い…に居る。 ・水精樓:固有名詞か。 ・水精:水の精。真珠。月。水晶。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「頭流樓」で、平水韻下平十一尤。次の平仄はこの作品のもの。
○○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
平成19.5.28 |
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