掃盡千秋帝土塵, 旭輝自与岳光新。 東巡今日供奉輩, 多是去年獄裏人。 |
掃き尽くす 千秋 帝土の塵を,
旭輝(きょっき) 自(おのづか)ら 岳(がく)に光の新たなるを 与ふ。
東巡 今日の 供奉の輩は,
多くは是(これ) 去年 獄裏の人。
◎ 私感註釈 *****************
※木戸孝允:政治家。桂小五郎。号して松菊。長州藩出身。吉田松陰に師事。慶応二年(1866年)、薩長連合を結び、倒幕・王制復古運動を指導した。維新後、新政府の中心となり、版籍奉還、廃藩置県を断行し、政体書による官吏公選など開明的諸施策を建言し続け、参議内閣制の確立に努めた。天保四年(1833年)〜明治十年(1877年)。
※この掛け軸は伊勢丘人先生所蔵のもので、釈文も伊勢丘人先生によるものです。箱書きは、女流画家の奥原晴湖で「此幅松菊公有名之詩也然世所愛之品、不能弁其真偽者多今看真跡如面、公筆力優美是天下之一品乎 秋琴敬白」(此の幅 松菊公の有名の詩なり。然(しか)るに世に愛せらるる所の品、其の真偽は多々弁ず能(あた)はず。今、真跡 面(おもて)の如くあるを看る。公の筆力の優美(は)是(これ)天下の一品ならんか。 秋琴敬白)。伊勢丘人先生によると---箱書きの女流画家の奥原晴湖(秋琴)と作者とは、山内容堂の宴会で知り合ったもので、二人は、孝允の死まで交際し、晴湖は孝允の推挙で皇室にまで出入りするようになったようです。「秋琴」こと奥原晴湖は、明治4年8月9日の「断髪令」により、彼女も断髪し、男装したのです。のみならず、幼少のころから、武芸が好きで、刀を所持したりなどしていました(秋瑾女史と良く似ています)。彼女が40歳のころ(明治9年)、かの岡倉天心が彼女の弟子になっています。 天心は後に、『晴湖女史』という漢詩を作っているそうですが、私はこの詩を知りません。---
※掃尽千秋帝土塵:天子の国土をすっかり掃き清め。 ・掃尽:掃き尽くす。掃き清める。掃き清める意では、後世、毛沢東は詞『滿江紅・和郭沫若同志』で「小小寰球,有幾個蒼蠅壁。叫,幾聲凄癘,幾聲抽泣。蟻縁槐誇大國,蜉撼樹談何易。正西風落葉下長安,飛鳴鏑。 多少事,從來急;天地轉,光陰迫。一萬年太久,只爭朝夕。四海翻騰雲水怒,五洲震盪風雷激。要掃除一切害人蟲,全無敵。」と使う。白居易『晩秋闍潤x「地僻門深少送迎,披衣闕ソ養幽情。秋庭不掃攜藤杖,梧桐黄葉行。」 。後者はただの掃除する意。 ・千秋:千年。長い年月。永遠。 ・帝土:天子の居るところ。 ・塵:ちり。土ぼこり。ごみ。ここでは、俗世の穢れのことをいう。
※旭輝自与岳光新:岳から(昇ってくる新生日本の)朝日は、自ずから新政府の高官に対して、光の新たなるを与えている。 ・旭輝:朝日が燦然と輝く。 ・自与:与えてより。また、…と…してより。『後漢書・卷一 光武帝紀第一上』「夜自與驃騎大將軍宗佻、五威將軍李軼等十三騎,出城南門,於外收兵。」。自分に与える。『史記・管晏列傳』に「管仲夷吾者,潁上人也。少時常與鮑叔牙游,鮑叔知其賢。管仲貧困,常欺鮑叔,鮑叔終善遇之,不以爲言。…管仲曰:『吾始困時,嘗與鮑叔賈,分財利多自與,鮑叔不以我爲貪,知我貧也。…(数多くの鮑叔牙に因る幇助)…生我者父母,知我者鮑子也。』」。 岳光:山とも比すべき新政府諸侯の輝き。この「岳光」を国立国会図書館の『松菊詩文』では、「學校」としているが、そうすれば「命がけで学校(学制頒布:明治五年(1872年))を創って、今日の日を迎えた」の意となり、詩意が通りにくい上にスケールもぐんと小さくなる。「岳光」と「學校」とでは意味や字形で似通ったところはない。日本語読みの「がっこう」が共通項としてある。平仄も「●○●●●●○」となり不都合。(作者は平仄に配慮している)。(伊勢丘人先生の釈文と解説に基づいています)。 ・岳:大臣諸侯。
※東巡今日供奉輩:東京に遷都する行幸の、今日の晴れの場の供の顔ぶれを見れば。 ・東巡:東京奠都。 ・今日:明治二年(1869年)の東京奠都の日。 ・供奉:〔ぐぶ;gong4feng4●●〕天子の行幸などの行列に供として加わること。 ・輩:やから。
※多是去年獄裏人:多くは近年まで獄中で過ごした人たちだ。 ・多是:多くは(…である)。(古白話)多分。およそ。多くは是(これ)。 ・去年:慶応二年(1866年)、長州征討が行われようとした時、長州正義派は政権の座を降り、代わって俗論派が政権を執って、正義派を粛清した時を指すか ・獄裏人:獄中の人。ここでは、俗論派に由る正義派粛清での被害者や、幕府の長州征討による被害者。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「塵新人」で、平水韻上平十一真。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○●●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
○○●●●●●,
○●●○●●○。(韻)
平成19.7. 9 7.10完 7.12補 |
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