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番外篇:
豆柴コンの物語


                                                                                                          

            
(平成26年7月27日起)

 豆柴コンは、やさしい心の持ち主で、ちょっぴりさびしがりやの犬です。小さいくせに耳をぴんと立て、尻尾をくるりと回して、今日も元気に門番をしています。


 「お友達は、まだ来ないかな〜」。今日も、毛の長いちいちゃなワンちゃんが来るのを待っています。でも、やって来たのは、耳を立て、尻尾をくるりと回したワンちゃんでした。それは、ご近所の柴犬リュウです。
 「フッハッ、フッハッ。フッハッ、フッハッ。」ボクは鼻息荒く、門の所を追いかけて走り回りました。すると、リュウも「ワン。ワンワン!」と吠えたてて、通り過ぎていくのでした。
 何故でしょう、お互いお友達に対して、今日も鼻息が荒くなってしまいます……。

 昼のお散歩の時に、向こうからちぃっちゃなわんちゃんがやって来ました。ところが、少し前で止まって、「ワンワンワン!」と甲高く吠えました。ボクは、聞こえないかのようなふりをして、道を進んで、通り過ぎました。


 ある月の明るい夜のお散歩の時です。小さな三角公園の草むらの所に、黒いちっちゃなワンちゃんと、同じくちっちゃな白いふわふわの毛のワンちゃんが仲良く、楽しそうにしているのが見えました。
 「ボクも一緒にあそびたいなあ 仲間に入れてよ。」そう思っていると、足が自然とそちらの方に向いてしまいました。
 すると、黒いちっちゃなワンちゃんと白いふわふわの毛のワンちゃんの飼い主の女の人がボクを見ました。
「まァ! 耳の立ったワンちゃん! 噛みつきそう。」「乱暴そうねぇ。」と言ってるように、月の光の中に見えました。


 「ボクが『乱暴そう』だって? 違うよ!こんなにやさしいのに。」
 ボクは考えました。「そうだ、ボクの耳が立っているのがいけないんだ。みんな『耳の立った犬は噛む』とよく言っているし…。」

 そこで、ボクは、立っている耳を可愛く寝かそうとしました。小さな三角公園で出逢ったワンちゃんのように…。
ご飯粒で作った糊を耳に附けて、エイヤッ…!美事、耳は可愛いワンちゃんのようになりました。
「できたぞ、できたぞ。これで可愛いワンちゃんだ。可愛いチビちゃんたちと遊べるぞ!」


 それから暫く経った梅雨晴れの時、テレビでニュースが伝えられました。
 北の方の秋田県で、小さな男の子が熊に襲われた時、その家に飼われていた柴犬めごちゃんが、吠えて熊を追い払ったということです。めごちゃんは女の子の犬です。そのすぐ後に、また次のニュースもありました。北陸の金沢市で、男の人が熊に襲われましたが、その男の人の飼い犬の黒柴ショコラは、熊に立ち向かって追い払ったという勇敢な行いが報道されていました。
 大きい熊と勇敢に戦って追い払い、家族の危機を救ったのは、耳のピンと立った、大きな牙のある茶色の柴と黒柴だったのです。

 ボクはその夜、夢を見ました。熊が襲ってきた夢です。
大きい熊が黒いちっちゃなワンちゃんと、白いふわふわの毛のワンちゃんに襲いかかってくる夢でした。ボクは仲間の危機を救うため、熊に猛然と飛びかかっていきました。長い長い戦いの後、熊は逃げていきました。ボクは、仲間の危機を救ったのでした…。

 目を覚ました後、豆柴コンは思いました:「ボクは、やはりボクのままのほうがいいや」と。
豆柴コンは折り曲げている耳の糊を取ろうと思いました。
「取れるかな……耳はまた立つかな…あのワンちゃんたちのように…」
 恐る恐るご飯粒の糊を取り除きますと、あの耳は、美事に再びぴんと立ちました。

 「そうなんだ。ボクはボクなんだ。」


 豆柴コンは、天に向けて耳をぴんと立て、強い風にも尻尾をくるりと巻き上げて、今日も元気に門番をしています。





    *************      

 
平成二十六年七月二十七日




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